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海と関わりが持てない子どもたちにも海洋学習体験を<助成事業者インタビュー>

お茶の水女子大学のノウハウを生かした教材開発とプログラム支援。全国の子どもたちへ海洋学習体験を提供。

2024.11.14

海と関わりが持てない子どもたちにも海洋学習体験を<助成事業者インタビュー>

お茶の水女子大学では、海から遠く離れた内陸の子どもたちにも海に関わる学習を提供しようと、2024年度も助成事業「内陸地域における海洋教育の実践と担い手養成」事業に取り組んでいます。
活動の大きな柱は2つ。独自の教材やプログラムを使った「海洋教育授業支援」と、オンライン体験学習イベント「全国一斉ウニの発生体験」です。

学校の授業などを支援する「海洋教育授業支援」では、企業と連携したカリキュラム開発や実施にも注力しています。
また「全国一斉ウニの発生体験」はもともと教育現場へ展開していたものを、2021年度に日本財団 海と日本プロジェクトの助成を受けてから対象を一般の方にまで広げて、取り組みを継続しています。2023年度には一般参加と学校参加をあわせて合計19,016名が、内陸を含む全国各地から参加されました。

今回は、お茶の水女子大学内で協力しながら活動を続けているサイエンス&エデュケーション研究所と湾岸生物教育研究所から、里浩彰先生と和田祐子先生のおふたりに、具体的な事業内容やこれまでの成果などについてお話を伺いました。

家庭から参加できる「全国一斉ウニの発生体験」イベント

一般の参加者も広く募っているという「全国一斉ウニの発生体験」は、ウニの未授精卵と精子、海水などのキットを参加者に送付して、各地で一斉に受精実験をしてもらうオンラインイベントです。産卵期が異なるウニを利用して、夏秋冬と年に3回開催されています。
希望者には受精実験が終わった後、受精卵から発生した幼生を稚ウニまで育て上げることにも挑戦してもらい、その観察研究で学んだことや考えたことを表現する作品コンテストにも多数応募いただいているそうです。

このイベントを担当する湾岸生物教育研究所の和田先生によると、
「学校では授業時間との関係で受精体験までで終わってしまうことも多いのですが、一般の方は多くが幼生飼育にも参加されます。シャーレやスポイトなどをセットした教材キットを提供していて、ご家庭に顕微鏡さえあれば参加可能なので、しっかりと意識高く取り組んでくれています」とのこと。
家庭から参加できる「全国一斉ウニの発生体験」イベント01

一般枠での参加は中学生や高校生、大人も大歓迎だそうですが、実際の内訳としては小学生が7〜8割を占めているのだとか。
「もともとお茶の水女子大学が学校向けに展開していたプログラムですが、中学校と高校からの申込がほとんどで小学校にまではなかなか利用を広げられていませんでした。でも対象を学校だけでなく一般にも広げたところ、家庭を経由することで小学生の参加が増えたんです」と、想定外だったことを明かしてくれました。
「一般からの参加人数はかなり少ないだろうと予想していたのですが、海と日本プロジェクト公式サイトで案内を出したら初回からあっという間に定員が埋まったんです。一般の方の熱量の高さに驚きを感じました」と、こちらも予想外だったそうです。

また、学校での参加であれば実験へのハードルは高くありませんが、個人で参加される方の戸惑いや不安を払拭するためにも、イベントの実施前には実験のコツや観察のポイントなどを共有するオンライン相談会が行われています。
「大学側からの説明はマニュアルに書いてあることの繰り返しとなってしまうので、試しに参加経験のある先輩ユーザーに体験をふまえたレクチャーをしてもらったところ、これがかなり好評でした」
パワーポイントを使いこなしながら講師役を務める先輩ユーザーは、なんと小学生。その児童に「かっこいい!」という憧れの目を向けて、「自分も頑張ろう、次は自分がレクチャーしたい、とモチベーションになったようで、良い循環が生まれていると感じています」と和田先生。

サイエンス&エデュケーション研究所の里先生も、
「GIGAスクール構想も相まって、パワポなどプレゼンソフトの使用は子どもたちにとっては日常になってきています。いろいろな学会で中高生たちの発表の場が設けられていますが、2022年に設立された日本海洋教育学会では小学生から会員登録ができ、実際に学会発表を行う小学生がいます。だんだん増えていくと思いますね」と教えてくれました。

実際のオンライン相談会を覗いてみると、実践から生まれたリアルな質疑応答が参加者同士で行われていて、かなり本格的。「学校では海について熱く語れる相手がいないが、オンライン会だと仲間がいて嬉しい」と参加できてよかったという声も寄せられているそうです。
家庭から参加できる「全国一斉ウニの発生体験」イベント02
家庭から参加できる「全国一斉ウニの発生体験」イベント03

企業とも連携しながら、普段の授業に海洋教育をプラス。負担のない授業支援

一方、学校で授業の支援などを行う「海洋教育授業支援」では、企業との連携した取り組みにも注力しています。
徐々に連携先も増えていて、休日に学習イベントを共同開催したり、企業が持つ生分解性プラスチックの知見やクジラの骨格を教材にした授業プログラムをつくったり出張授業を展開したりと、さまざまに活動されています。
企業側にとっても、環境問題などSDGsに関する独自の取り組みを行なっていても教育現場にまではアプローチできず、お茶の水女子大のノウハウやネットワークを活かせば一歩踏み込めると積極的に協力してくれているのだとか。

多彩な授業支援に取り組まれていますが、心がけているのは、できるかぎり普段の授業とのつながりを大切にすることだと、里先生はキッパリと言います。
「いきなり海の授業を持ち込んでも、そのとき限りのイベント的な盛り上がりで終わってしまいます。普段の授業から『これも実は海と関わりがある』と丁寧に、海の話題へ目を向けてもらえるよう支援に取り組んでいます」。

難しい点はもうひとつ、学校教育の現場では先生方がたいへん多忙なので、新たに海洋教育を提案しても「なかなか取り組む余裕がないので」と後ろ向きな反応が示されることもあるのだとか。
「そこでも、『普段の授業とつなげれば負担なく取り組めるうえ、授業も発展させられます』と説明を重ねて理解してもらい、コミュニケーションをとりながら支援をしています。無事に授業を終えたときには『やってみてよかった』『良い授業ができた』という先生がほとんどですね」と先生方のサポートに心を砕いていらっしゃいました。
企業とも連携しながら、普段の授業に海洋教育をプラス。負担のない授業支援01
企業とも連携しながら、普段の授業に海洋教育をプラス。負担のない授業支援02
企業とも連携しながら、普段の授業に海洋教育をプラス。負担のない授業支援03

きっかけは「海から離れた地域での海洋教育の実施割合が低い」という調査データ

これらの活動がスタートしたのは2012年頃、まだ研究所ではなくセンターという名称で呼ばれ、お二人とも関わってはいなかったそうですが、当時は“理科離れ”が課題で、学校教育の現場に積極的に働きかけていこうという意向があったのだとか。
ちょうど2007年に海洋基本法が成立し、全国で「海洋教育」としての実践が集まり始めたタイミングでもあり、日本財団と海洋政策研究財団の調査で「海から離れた地域での海洋教育の実施割合が低い」というデータも発表されました。そこに着目して、海に関わる学習教材とカリキュラムの開発・提供に取り組み始めたそうです。
湾岸生物教育研究所の協力で、海藻や貝殻といった実物を、生の教材として活用していきました。
きっかけは「海から離れた地域での海洋教育の実施割合が低い」という調査データ01
きっかけは「海から離れた地域での海洋教育の実施割合が低い」という調査データ02

長く取り組んできたプログラムですが、海中での受精を陸の上で再現してもらうので、必ずしもうまくいくとは限りません。
和田先生は「でも失敗からもいろいろなことを学んでほしいと思います。そしてイベントに参加して終わりではなく、講師を務めたり、コンテストで発表をしたりすることもできるので、自分が学んだこと、知ったことを次につなげていってほしいと思います」とエールを贈ります。

里先生は、今後もこれまでに得たノウハウ、経験を生かして教育の場を活性化していきたいと考えているそうです。
「内陸の子や不登校の子、入院中の子など、海と出会いたくても出会えない子にもアプローチしていきたいです。よく子どもたちには『海に行かなくても、海とのつながりはある』と伝えているのですが、必ずしも海に行かなくても学びはあるんです。その学びの体験をきっかけに、明日からの世界の見え方が変わっていくといいなと思っています」

そして最後にあらためて、ご自身にとって「海」とはどんな存在なのか、伺ってみました。
「海で起きていることを陸の上で再現するのはとても難しいんです。それだけ海って本当にすごい。それを、これからも伝え続けていきたいと思っています」と言うのは和田先生です。

里先生は「海はみんなをつなぐ場所だと考えています。物理的にも概念的にも、“海”に集まってお互いの考えを共有して話し合えるハブのような役割が担えると思うし、そうあってほしいですね。今後も海と接点のないところへのアプローチを続けて、海に行けなくとも関わりを持てると理解を広げていけたら嬉しいです」とメッセージを寄せてくれました。

どこにいても、誰もがみんな海と繋がっている。
そんな身近で大切な海について理解を深める学習体験を、これからもたくさんの子どもたちへ届けてもらえたらと願っています。

きっかけは「海から離れた地域での海洋教育の実施割合が低い」という調査データ03