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ヨコハマ海洋市民大学2023年度講座 第7回「氷は地球環境のお母さんです。氷を守ろう」を開催しました!

ヨコハマ海洋市民大学実行委員会は、横浜の海が抱える社会課題の解決に挑戦する市民を養成する講座「ヨコハマ海洋市民大学2023年度第7回講座」を開催。南極料理人の篠原洋一さんから、南極と北極にある氷の重要な役割などについてうかがいました。

2023.12.27

ヨコハマ海洋市民大学実行委員会は、令和5年12月7日(木)に横浜の海が抱える社会課題の解決に挑戦する市民を養成する講座「ヨコハマ海洋市民大学2023年度第7回講座」を開催いたしました。

このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

開催概要
「横浜の海が抱える社会課題を自ら考え、解決できる市民(海族・うみぞく)」を育成するヨコハマ海洋市民大学2023年度講座(年10回開催)の第7回目「氷は地球環境のお母さんです。氷を守ろう」を開催。
開催日時
2023年12月7日
開催場所
Bar de 南極料理人Mirai(神奈川県横浜市中区)
参加人数
24名(会場受講生14名、講師・実行委員7名)
共催
日本財団 海と日本プロジェクト
後援
横浜市、海洋都市横浜うみ協議会

今回は南極料理人、篠原洋一さんにご登壇いただきました。というより実際には受講生+実行委員合計24名で篠原さんの経営されるお店に押しかけ南極料理を食べながら聴く講座になりました。

そしてその講座は出だしから認識間違いの指摘で始まります。「みなさん、今日は南極料理を食べられるという声が聞こえましたが、南極料理というのはありませんよ!だって現地で食材を調達することもできないし(南極条約で禁止)、独自の料理があるわけではないのですから。」…確かにおっしゃる通りです。南極料理人は南極料理を作る人ではなく、南極で観測隊員に最高の料理を提供する人のことだったのです。


左:会場で提供された料理  右:南極で提供された豪華な日本料理の写真

そんな篠原さんは33次南極観測隊に参加・帰国後、豪華客船の飛鳥・飛鳥IIに合計14年も乗船し、料理人として活躍されました。そして「やっぱりもう1度オーロラが見たい。」となんと50次隊に再び参加されます。その後は現在のお店を開店し、今年で14年目になるそうです。横浜で料理人をしながらも南極で学んだことを伝えずにはいられず全国各地に招かれて講演活動をされています。頂戴した名刺の裏には「世界1周×9回、南極越冬隊×2回、世界70ヵ国約200都市を巡り世界9周7大陸と7つの海に足跡を残す」と言う文字がありました(他にもたくさんの経歴が書かれています)。

篠原さんは料理人(ご本人は板前とおっしゃっていました)として仕事を始めてすぐの10代の終わり、北海道大学の教授から南極の話を聞いて感動し「オーロラを見たい」と強く思ったそうです。その教授から「板前を6〜7年修行してなんでも作れるようになったら隊員に推薦してあげる」と言われその言葉を胸に、枕元に置いた南極の写真から元気をもらいながら修行を続け、晴れて6年後に推薦をしてもらったそうです。しかし1回では選ばれませんでした。それでも諦めず応募し続け3度目にようやく合格しました。板前9年+準備期間1年の10年後にようやく念願の南極に立つことができたのです。夢を諦めないパワーがすごいです。


左:講座スライドのトップはオーロラです  右:店内の世界地図には篠原さんの経歴

今回の講座タイトルは「氷は地球環境のお母さんです。氷を守ろう」。筆者はこのタイトルが具体的に何を指しているのか正直ピンとこないまま講座に臨みました(もちろん局地の氷がたくさん溶けることで海水面が上昇し陸地が減少するなどの被害が出るのは知っています)。

さて、そもそも篠原さんの大好きな南極とは…平均標高は2,010m、標高の1番高いところでも5,000m弱でそれほど高さのある大陸ではありません。ただその最低気温は…ロシアのボストーク基地でなんとマイナス90度近くの記録があります。そして映画 南極料理人の舞台になったドームふじ基地は日本の富士山より少し低いくらいの標高ですが、ここもマイナス80度くらいになるとのこと。この基地では分厚い氷の地面を掘って昔の大気などを調査する氷床ボーリングが行われていて深さは3,200m、なんと73万年前までの大気分析ができているそうです。そして篠原さんが働いていた昭和基地(南極大陸の4km沖にある東オングル島)の最低気温はマイナス45.3度という記録があるそうです。ちょっと想像がつきません。

そんな極寒の昭和基地にも時々お客さまがやってくるそうです。もちろん観光客ではありません。ペンギンです。どうやら南極観測隊のみなさんが二足歩行をしているので人間を自分たちの仲間だと思った若いペンギンがグループでやってくるらしいのです。そしてしばらく仲間(人間)の観測をすると「じゃあ、帰るわ!」と言う感じでそろって営巣地に戻っていくそうです。その帰り方も「僕みたいにお腹がでているペンギンはね、考えが似てるのか歩くよりお腹で滑った方が早いやと氷の上を滑っていくんだよ」と篠原さんは笑いを誘います。篠原さんはペンギンを「この人たち」と表現していてペンギンへの愛を感じました。

かつて南極はゴンドワナ大陸の一部で現在のスリランカと同じ地質だそうです。3,500万年前にスリランカ辺りから分かれ、島に取り残された樹木や恐竜の化石(と化石燃料)、スリランカ辺りで採掘される宝石なども氷の下に眠っているけれど、南極の資源や環境を守るための南極条約がそれらをしっかりと守っているそうです(私利私欲の開発は厳禁です)。そのため各国の南極基地の隊長が相互に条約遵守を監査するシステムも確立しているとのことです(夏は各国が持ち寄った飛行燃料をシェアして監査の移動をするそうです。ちなみに近い基地と言っても1,000km離れているとか…)。そうそう、南極の大きさですが日本の37倍の面積があります。結構大きいですね。

そんな環境の保護に世界中が気を遣っている南極ですが、大気に運ばれてPM2.5に代表される汚染物質がやってくると氷の粒をまとい、雲になるんだそうです。これが空を漂い、深夜には沈んだ太陽光を反射して夜光雲(やこううん)と呼ばれる現象になるんだそうです。オーロラとは異なりぼんやりと空で光っているのだとか。その汚染物質が地表(氷上)に降りてくると氷にちいさな黒いシミを作ります。これが広がると黒い表面の氷となり、なんと気温0度以下でも太陽光を吸収し氷が溶けてしまうのだとか。気温上昇だけが南極の氷を減らしているわけではなさそうです。その夜光雲も篠原さんが2度目に越冬した14年前に初めて観測されたのだそう。空気を汚さないこと、ごみを出さないこと(焼却ごみも減らす)を徹底しないと南極の氷が守れないのだと感じました。

その南極の氷がなくなると海面上昇以外に何が困るのでしょうか。篠原さんのお話は続きます。砕氷船しらせで南極に向かう時は海氷を割って進みます。その進み方も氷に乗り上げ割ったのち、バックをして方向(角度)を変えさらに氷を破る作業を繰り返しジグザグに進むのだそうです。そんな氷を見ているとき、ひっくり返った氷の底面が茶色くなっているのを篠原さんは見つけます。観測隊の研究者に「汚染されているのですか️?」と聞くと「あれはアイス・アルジーだ」と答えてくれました。アイス・アルジーは小さな藻の一種で苔のような姿だそうです。太陽の出ていない冬でも成長することができ、太陽の出ている時期に成長する植物プランクトンと併せ、食物連鎖の底辺で局地の生き物を支えています。氷がなくなるとこのアイス・アルジーが繁殖できなくなり、生態系が狂ってしまいます。海洋タンパク(生き物)の65%はなんと局地(北極、南極)で育まれており、この生態系が狂ってしまうと人間の食に多大な影響を及ぼすのは確実です。これがまずひとつ目の「地球環境のお母さん」の役割です。

さらに局地にあるたくさんの氷が海水を冷やし、地球の冷却システムも担っています。世界を巡り暖められた海流が局地に到着するとたくさんの氷で十分に冷やされ重い海水としてゆっくり深海まで沈みます。そして海洋深層水として世界を巡ります。海水を冷やしていたたくさんの氷が減ることで海水を冷やし切れず、深海に沈まず中層で循環するようになってしまった可能性が近年指摘されています。この冷え切らなかった海水が近年の台風頻発の原因になっているのではないかと言う研究者もいるそうです(研究者によって諸説あります)。この冷却システムを担う氷も「地球環境のお母さん」の役割です。

また氷の話ではありませんが、33次隊に参加したのち豪華客船 飛鳥・飛鳥IIに料理人として仕事をしながらハワイ沖をアラスカに向かう途中で、島のない海域に島と見間違うような黒いものが見え、不思議に思ったそうです。それは何と、海に浮かぶ、数キロにも及ぶプラスチックの塊だったのです。公海上なので誰が処理しなくてはいけないという義務がなく手付かずになっているという現実を知りました。篠原さんは国内ケミカルメーカーに講演で呼ばれた際はその事実をお伝えし対策の検討なども議論しているそうです。


飛鳥でアラスカに向かう途中で見た、海上のプラスチックごみ

筆者の印象に残ったことのひとつに「映像で局地の氷がこんなに減っている!と盛んに氷河の崩れる画像を目にするけど、あれ、実はアラスカの画像が多いんです。しかしアラスカの氷河は南極とは違い、山と海が近いため夏には派手に崩れるという地域特性的なものなんです。なのでその画像を氷河が温暖化でどんどん溶けていると言う表現にそのまま使うのはいかがなものかと思っているんです。」と言う篠原さん。「報道される映像だけに迷わされることなく、みなさんにはきちんと環境の知識を得て正しい行動をしてほしいと思っています。」と篠原さんは語っていました。

講座はタイトルの氷のお話以外にも料理のこと、観測隊員の健康管理、モチベーション管理、実際の観測のあれこれと、たくさん、たくさん詰め込まれていました。

世間では地球温暖化の報道(話題)が多くなり、あまり報道されなくなったオゾンホールのお話もありました。太陽の出ない冬の間にオゾンが減ってしまうと(フロンガスなどで破壊されてしまう)紫外線を通過させてしまい陸上の植物や海藻の育成に影響を及ぼし二酸化炭素の吸着ができなくなったり、紫外線を浴びた生物は皮膚癌や眼病になるなどの大きな被害が出てしまうそうです。十分な日光が局地に戻ってくるとオゾンが再び生成されるそうですが、こちらも世界中で代替えフロンへの置き換えが進まないといけなところです。ちなみに成層圏(地上10,000m〜50,000m)に位置するオゾン層の厚みをご存じですか?たったの、たったの3mmだそうです!これを聞いた受講生からは驚きの声が上がっていました。

あっと言うまに1時間の講座が終わり質疑応答の時間となりましたが、質問が終わらず司会者が遮って終わりを宣言するほどの盛り上がりを見せました。

Q:篠原さんは料理人なのになぜそんなに環境問題に詳しいのですか?
A:南極にはバーがあり、調査に出ていない研究者を捕まえてあれこれ聞くのが娯楽でもあり勉強でもあるんです。

Q:南極料理人の募集はどこで見つけるんですか?
A:国立極地研究所の募集に対して推薦状をもらって応募します(市販の情報誌ではありません)。

Q:南極でラーメンが食べられないと言う悩みがあると聞きましたが。
A:そういったことを起こさないために南極料理人は知恵を振り絞って乗り切ります。それはきっと映画でのお話だと思います。

参加者の声

・とにかく楽しかった
・知らないことがたくさんあった
・実際にオーロラを見たくなった
・南極条約を批准していない国の進出などが心配になった

 

イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています

参加人数:24人