次世代を担う小学生が様々な”海を守る”体験【やまがた海洋塾2021~海の守り手たち~】を開催!~ロンドンとも中継を結び、世界と海洋課題を共有~
海と日本プロジェクトin山形実行委員会は、次世代を担う子どもたちに山形の海を知ってもらい、海を守る存在になってもらうことを願い、【やまがた海洋塾2021~海とその守り手たち~】を開催いたしました。
2021.09.02
海と日本プロジェクトin山形実行委員会は、次世代を担う子どもたちに山形の海を知ってもらい、海を守る存在になってもらうことを願い、【やまがた海洋塾2021~海とその守り手たち~】を開催いたしました。イベントには山形県内の子どもたち約30人が参加し、漁業実習船鳥海丸の乗船体験や酒田市六角灯台の見学、鶴岡市の鼠ヶ関灯台の内部見学の他、ライフジャケットを使った身を守る泳法、漁の見学、海洋ごみのクリーンアップや稚魚の放流などを行いました。子どもたちは海の守り手を巡ることで、海への関心を高め、次世代の海の守り手として羽ばたく決意を胸にしたようでした。
このイベントは、次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
開催概要
やまがた海洋塾2021~海とその守り手たち~
日程
2021年7月31日(土)、8月1日(日)、8月7日(土)
開催場所
山形県酒田市・鶴岡市
参加人数
30人
協力団体
山形県・酒田市・鶴岡市・山形県海洋教育研究会・山形県立加茂水産高校・山形県水産研究所・山形県栽培漁業センター・酒田海上保安部・鶴岡市立加茂水族館・鼠ヶ関自治会・山形県漁協女性部加茂支部
オリエンテーションで知る、山形の海
約7割が森林の山形県では、海に対する理解も住んでいる場所によって大きな隔たりがあります。
今回参加した子どもは沿岸部の子どもたちから内陸の子どもたちまで様々。オリエンテーションでは、お揃いの「やまがた海洋塾塾生帽子」が配られ、やまがた海洋塾の塾長を務める山形県立加茂水産高校の元校長佐藤淳氏から、全国的に短い海岸線でありながらも豊かな山形の海の特徴が説明されました。
「将来どんな守り手になりたい?」という大きな課題が子どもたちに与えられ、子どもたちが海の守り手を巡る旅が始まりました。
明治から航海を守ってきた灯り!日本最古級の木造六角灯台に特別に潜入
最上川左岸河口の宮野浦に北前船で賑わう明治28年10月20日に建てられた酒田市の六角灯台は、その当時から酒田が海と深いつながりを持っていたことを示すものです。地形的に海風が強く、多くの船が入港に苦労する中、この灯台の光はまさに「守りの光」でした。現在は移築されましたが、子どもたちはこの灯台とその周辺の、かつて米を貯蔵していた場所などを学び、今の酒田の港へとつながる歴史を学ぶと共に、以前から海と人とが強い関わりがあることを学びました。普段は内部が公開されていない、木造六角灯台の扉があけられると、子どもたちの目は内部にくぎ付け。内部でもしきりにメモを取り、興味深そうに話に耳を傾けていました。
海洋教育を守る船!鳥海丸で海から山形を見てみよう!
普段は加茂水産高校生徒を対象とした船舶運航(航海・機関)の実習、延縄、流網、蟹篭、いか釣りなどの漁業実習及び海洋資源の調査・活用を目的とした実習を行っている船が漁業実習船「鳥海丸」です。
その鳥海丸で子どもたちが教えられたのが、「獲る漁業」ではなく山形が進める「つくり育てる漁業」でした。鳥海丸はただ獲り方を教えるのではなく、海のめぐみを守る漁業を教えている船であり、ある種、海と人との共存の象徴です。子どもたちはその鳥海丸の船員たちから、「海と共に生きる」考え方を学び、漁業が守る海について考えました。また、海から陸を観察し、山形の沿岸の地形的な特徴や様々な灯台について理解を深めているようでした。海の上には様々な学びがあります。川の水と海の水の境目もその一つ。塩分濃度の低い川の水と塩分濃度の高い海の水は層を作り、海上では線として境目が浮かび上がります。この日はくっきりとその様子が観察できました。
なぜカレー?船員たちが食べるカレーを実食
普段、「教育実習船」として海の学びを伝えている鳥海丸の活動エリアは広く、月単位で海上生活を送ることも多くあります。この時、「曜日感覚」を失わないように毎週金曜日に必ず提供されるのが「カレー」です。子どもたちは、船上ならではのこうした生活を感じ、驚いている様子でした。また、加茂港に到着後は、大きな港以外に着岸する際に船員が実際に行っている、カッターボートでの着岸を体験しました。より海と近い位置で疾走するカッターボートで感じる海に、海を守る気持ちを高めている様子でした。
自らが守り手に!身を守る泳ぎ方を学ぼう!
海は「楽しさ」だけではなく時に危険も伴います。危険に対処する方法を正しく知ることで、海を一層楽しめる場所にしていくことができます。子どもたちはライフジャケットの浮力を体感するほか、ペットボトル等が浮力を得るものとして代用できること、またこうしたもので溺れた人を助けることができることを学びました。自分の身を守る方法を知ることは、他人の身を守ることにもつながります。子どもたちが「自分たちが守り手になる」という意識を持つきっかけになっていました。
海の生き物を守り、知る拠点「鶴岡市立加茂水族館」!
山形県唯一の水族館「加茂水族館」はクラゲの展示数世界一として有名ですが、それだけではなく、山形県沖の生態を研究し、研究成果から守り伝える拠点施設でもあります。子どもたちは山形の海が再現された水槽や、鳥海丸等、船が沖で観測研究した成果をつなぎ、調査研究する姿を感じ取り、自分たちの暮らす街がつながる海で暮らしている生き物の生態を知り、それらを後世へとつないでいく責任について学びました。これまで知っていた水族館とは違った側面に、子どもたちは大きな関心を寄せていました。
食文化を守る料理人に聞く え?!昔と今で獲れる魚が違うの?
「食」の目線で文化を作り守ってきたのが料理人です。庄内地方では古くから海と共に生活し様々な食文化が創造されてきました。しかし、近年、獲れる魚に変化が起きています。今回、西日本がメインの漁場になっているものの、近年山形でも水揚げされている「鱧(はも)」の料理が子どもたちに振る舞われ、獲れる魚の変化について語られました。子どもたちは、環境の変化が身近な海でも起きていることを知り、驚きを持って接するとともに、魚を鮮やかにさばいている料理人の姿に関心を寄せていました。
世界規模で海を考え、地元でアクションを起こそう!ロンドンの日本食学校と交流
今回の活動には、海外の目線も注がれました。ロンドンの調理師学校の生徒約3000人が、海と日本プロジェクトin山形のやまがた海洋塾の食の学びにオンラインで参加しました。同じ海洋国家であるイギリス・ロンドンでも海に対する理解は大きく、海と人とをつなぐ「海と日本プロジェクト」の活動に強い関心を寄せていました。
交流では、子どもたちを中心にロンドンと山形での海の特性の違いや食文化などを質問し合い、文化の違いや同じような海の課題を知り、驚く場面もありました。そして、海と人が関わり、そして現状や文化を伝えていくアクションを起こすことが大切だということを、国境を超えて共有。ロンドンの調理師学校でも「海と日本プロジェクト」のロゴを振って、思いをひとつにしました。さらに調理師学校側でもSNS等で発信が行われ、世界で課題を共有しました。
山形の海の特徴は?漁師も守り手。つくり育てる漁業
山形県の海の研究拠点、山形県水産研究所にて庄内の海で行われている漁業の方法や歴史や魚種、漁法も併せて学習しました。「山形県の海の特徴」と共に、禁漁期や輪番制など「獲る漁業」ではなく「つくり育てる漁業」を行う山形の漁業についての理解を深めた子どもたちは、磯見漁で水揚げされたばかりの海産物を観察しました。特に内陸出身の子どもたちには生きた海の生物を間近に見ることが初めてという子どももいて、目を輝かせている様子でした。
漁業と食卓を繋ぎ、食を守る!イカをさばき、水産加工を学ぼう!
海の恵みが一体どのような形で、家庭に運ばれているのでしょうか。漁業者と購買者の間にいる水産加工も海を考える上で重要です。漁業の受け皿となり、食で海を発信する重要な水産加工も子どもたちは体験しました。庄内の夏の味覚「イカ」から加工品「イカメシ」を作ります。始めてイカに触れる子どもも多く、最初はおっかなびっくり触っていた子どもたちですが、時間が経つにつれ、その怖さも吹き飛び、積極的に料理に参加。加工品が発達してきた背景や、昔ながらの技術等、漁業と共に発展してきた文化を学んでいました。
海の守り手を船で巡る。自身も守り手!漁業監視調査船『月峯』
漁業が適切に行われているか取り締まる、漁業監視調査船『月峯』は漁業に最も精通する船舶であると共に、「海の恵みを守るための船」です。子どもたちはこの船に乗り込み、実際に漁を行っている漁船を見学。漁を間近で学ぶと共に漁船が行う『輪番制』等の活動を知りました。また、陸地近くを走り、山形の海岸の地形により生まれた様々な灯台を巡ることで、人と海のつながりを感じていました。
鼠ヶ関灯台を特別な許可を得て見学!海と人を繋ぎ守るシンボルとは
灯台が隣接する鼠ヶ関漁港は、2016年に当時の天皇皇后両陛下がご来県し実施された「豊かな海づくり大会」の会場で山形の海のシンボリックな存在です。この地域の中でも一際シンボリックな存在が、「鼠ヶ関灯台」です。「恋する灯台」にも認定されているこの灯台の内部に、特別な許可を得て、子どもたちは潜入しました。事前の学びで海から見た灯台に登り、今度は逆に陸から海を見ることで、そのサイズ感や、守り手として絶やさず光を出し続ける存在の価値を確かめているようでした。
守り手への第一歩!はだしで歩ける海岸をめざして
これまで海の恵みを中心に巡ってきた子どもたちが目の当たりにするのが海洋ごみの問題です。人が捨てたごみが海にどのような影響を与えているのか、ゴーストフィッシング等、人が出したごみにより海の中で起きている事象についても触れ、海洋ごみの現状をより詳しく知っていきました。また、実際に庄内浜の海岸を歩き、海洋ごみの回収作業を行った時には、打ち上げられた数々の海洋ごみにショックを受け、海で自然に発生したとは考えられないごみを皆必至な表情で拾っていました。子どもたちが「守り手」としての第一歩を歩みはじめた瞬間でした。
共に羽ばたく海の命 守り手への誓い、稚魚の放流
クリーンアップした浜を舞台に、子どもたちは、これから「守り手」として成長していく自分たちと共に成長する存在として、「クロダイの稚魚」を放流しました。稚魚の体長は5㎝程。水揚げされる40㎝程に成長するには約5年かかります。その間、稚魚たちは浅瀬で外敵から身を守りながら暮らすのです。その為にも、子どもたちの行ったクリーンアップが生態系の保護のためにも大切な活動になります。
「君たちが高校生になるころ、海はどうなっているのだろうか?」という講師からの問いかけに、子どもたちは難しい表情をしながらも、クリーンアップをした浜で、それぞれがそれぞれの思いを込めて「自分と共に育っていく存在」の「クロダイ」を放流しました。稚魚の放流が「海の守り手」として成長していく子どもたちの象徴たるイベントでした。
文化を守り伝える浜の食!漁村の食を味わおう!
長い年月を浜で暮らすことにより代々受け継がれ、発展してきた「浜のご飯」は、文化の守り手です。
地元では普通のものでも外から見ると新しい発見の連続が。今回、浜のお母さんたちの手作りご飯を味わった子どもたちは、自分の地元とは違うご飯の食べ方に驚きを感じるとともに、食文化から海と人とのかかわりを再発見しているようでした。
ふるさと納税に思いを乗せて…商品開発
卒業制作として子どもたちは、巾着及び思い出通信を作りました。今回のイベントを通して庄内浜で学んだ知識を生かし、なにを全国に届けたいか考えた子どもたちは、巾着袋のデザインに思いを込めました。
巾着袋は、古くからお守りを入れるために使われる「守り巾着」など、単なる袋としてだけではなく、「守る」という意味を持っているもの。商品として子どもたちの学びを庄内の海の幸の恵みと共に届け、幅広い層の人々に海への関心を持つきっかけを作りたいと願っての商品作りです。
卒業式:海洋塾で学んだこと
卒業式に参加した子どもたちは、多くの思いを胸に卒業していきます。参加した子どもたちは「海がこれほどたくさんの人や物に守られていることを初めて知った」など、それぞれの思いを仲間たちの前で発表しました。
改めて塾長の「将来どんな守り手になりたいか」との問いかけを受けた子どもたちは、「食文化」「港湾」「生態保護」といった守り手につながる活動についての意欲を聞かれると大きく手を挙げていました。
海の守り手を巡り、海の守り手への一歩を踏み出したやまがた海洋塾の塾生たちが、今後更なる海の守り手として羽ばたき、それぞれの方法で海を守る存在になることを願います。
イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています。
参加人数:30人