海ノ民話アニメを活用した学校授業を愛媛県今治市内小学校で実施。 今後、教育現場での活用促進を目指す。
一般社団法人日本昔ばなし協会は今治市と連携し、今治市内小学校3校の5年生を対象に、地域の海ノ民話「クジラのお礼まいり」を題材にした、民話活用授業を試験的に実施いたしました。今後、この授業内容は映像でマニュアル化し、「海ノ民話のまちプロジェクト」公式YouTubeへ掲載することで教育現場での活用促進を目指します。
2022.11.18
一般社団法人日本昔ばなし協会は今治市と連携し、今治市内小学校3校の5年生を対象に、地域の海ノ民話「クジラのお礼まいり」を題材にした、民話活用授業を試験的に実施いたしました。今後、この授業内容は映像でマニュアル化し、「海ノ民話のまちプロジェクト」公式YouTubeへ掲載することで教育現場での活用促進を目指します。
この取り組みは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
日時 | 2022年11月10日(木)、11日(金) |
会場 | 宮窪小学校、常盤小学校、乃万小学校 |
対象 | 宮窪小学校5年生(12名)、常盤小学校(92名)、乃万小学校(119名) 小学校5年生(45分授業) |
授業 構成内容 |
授業タイトル 身近な海のことをもっと知ろう!~クジラのお礼まいりから学ぶ海のあれこれ~ 使用した民話 クジラのお礼まいり(愛媛県今治市に伝わる民話) <あらすじ> 四国と本州をつなぐ瀬戸内しまなみ海道沿いにある鯛崎島で、潮が引いた磯に取り残されたクジラを、お地蔵さまと魚たちが協力して助けると、それから毎年クジラが群れでお礼まいりに訪れるようになった。 |
●授業の目標
①潮の満ち引きが起きる仕組みについて理解し、来島海峡付近や瀬戸内海の特徴について知る。
②くじらの特徴について理解し、くじらや海の生き物について興味・関心を高める。
●授業構成(理科の授業で実証実験)
・身近な海に目を向けてみよう
・クジラのお礼まいりアニメーション視聴
・どうして潮は満ち引きするの?
・くじらについて学ぼう
・まとめ
●講師プロフィール
お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーション研究所 特任講師
里 浩彰さん
所属する総合知開発研究機構サイエンス&エデュケーション研究所と湾岸生物教育研究所が中心となり、海洋教育推進プログラムを進行。海なし地域でも実践できる海洋教育カリキュラムや教材の研究・開発を行うなど、学校現場での実践支援を実施している。
里先生が解説! 授業で伝えたポイント
①海がなくなると日本はどうなる?生活に欠かせない海の役割を知る
授業は、民話が生まれた海について考えるクイズからスタートしました。日本は海に囲まれた島国であり、日本人のおよそ50%が海のそばに住んでいること、輸出入貨物はほぼ100%海上輸送に頼っていること、そして、今治市には世界初の3連吊つり橋があるなど、日本と海、今治市と海はきってもきれない関係であることをクイズ形式で説明しました。海に関心の高い児童の割合が多く、海に近い地域ということもあり、日常生活で海と触れ合う機会が多いことを実感しました。海への関心を更に高めたところで、地域で誕生した民話のアニメーション鑑賞を行います。
②泳ぎが得意なクジラも苦戦、潮の満ち引きはどうして起こるのか
アニメーション鑑賞後、民話に込められた海の学びを詳しく扱っていきます。民話の舞台は、四国と本州をつなぐ瀬戸内しまなみ海道沿いに浮かぶ小さな鯛崎島。隣の能島とともに島そのものが村上海賊の城で、潮の満ち引きの差が激しく荒波に守られた海の要塞でした。泳ぎが得意な海の生物たちですら浜に打ち上げられてしまうほど、海の備えが必要な地域です。授業では、潮の満ち引きはなぜ発生するのか、図や映像、全国各地の潮位を予測する気象庁のHPを用いて、他の地域と比較しながらその特徴について学びました。海の備えが必要で危険な反面、引き潮時は珍しい海洋生物と出会えることなど海の魅力にも触れ、海とうまく共生していくことの大切さを知ることに繋がりました。
③クジラはどんな生き物?
アニメに出てくるクジラは、クジラ類の中では最も泳ぐのが速いイワシクジラ。泳ぎに自信があっても海に取り残されてしまうほど、地元の海の干満差が大きいことを学びました。授業では、クジラの基本的な生態について学び、本物のクジラの骨に触れて観察します。またアニメの中で描かれている、引き潮に取り残されたクジラが魚たちに助けられたという一場面について、人間でも協力すれば持ち上げることはできるのか、という疑問のもと、計算式に当てはめ実際に児童たちがクジラをも持ち上げる方法について考えました。また、年々漁獲量が減少している瀬戸内海の現状を知り、海の環境変化を学ぶことで、生き物を通して海のことを知るきっかけを作ることができました。
参加した児童や先生からの声
【児童】
・地域の民話がアニメになって日本中に自慢したいと思った。
・映像と音声のあるアニメで授業を受けて、教科書だけで勉強するより理解しやすかったし楽しかった。
・地元の海や魚は好きだけど、漁獲量が減っていることは知らなかった。
・今治には潮の満ち引きの差が大きいという海の特徴があることを初めて知った。地元なのにまだまだ知らないことがあってもっと地元の海を知りたくなったし、今からでも海に行きたい!
・他の学校にも、わかりやすくて楽しい民話アニメの授業をおすすめしたい。
・今まで海のことが少し怖かったけど、海を理解できて少し興味が沸いた。
【校長先生】
・里先生の優しい口調と雰囲気が非常に良く、子どもたちもすんなり授業に入ることができた。海の民話を活用した授業は、海に囲まれた私たちにとってはとても身近で、学びがありぜひ全国でも取り組んでほしい。
・今回の授業は大変素晴らしかった。学校の教育活動の中で、自然を体験する場面が今回の民話授業とリンクすることがいくつもあった。自然から学んだこと、アニメーションから学んだこと、大学の先生から学んだこと、各方面からの学びがあり、それらを踏まえて自然・海に関わることがとても大事だと感じた。
・子どもたちにとってとても良い時間となった。物語の中で今治のことを好きになってもらえる要素が盛り込まれており、海への関心を持つことができた内容だった。アニメーションを使用することで、興味関心を持った状態で授業を受けることができた。今回の授業を通して、今後海を見たときに自分たちの地元を考えることができる逆のフィードバックができる構成になっていたと思う。
【今治市 徳永茂樹市長】
気付きと学びがたくさんある授業だった。海は近くにあるが、知ろうとしないと得られない海の現状まで里先生の分かりやすい講義で取り上げていただけた。今回の取り組みをきっかけに、村上海賊と海の歴史が息づく今治市で、相互扶助の精神を取り戻すと共に、海の豊かさをもう一度実感し、自分ができることを考えられる子どもたちが増えることを期待している。
【講師 里浩彰さん】
今回使用した海ノ民話アニメはどれも5~6分程度で、授業の導入部分に使用するのにとても使いやすいと感じた。アニメを見ることで様々な感覚から情報を受け取り、授業に入り込むきっかけをつくることが出来た。民話は、地元に根付いたものであり、そこから文化や教訓を学べる教科書的な役割も果たしているため、ただアニメを見て楽しいだけでなく、そこから学びを抽出して伝えてあげることが地域にとっても大事なことであると思った。
今後の展開
試験的に実施した今回の授業は、理科の科目で民話を活用した場合の一例として映像でマニュアル化し、誰でも視聴可能なYouTubeへ掲載予定です。動画を視聴いただく方々には、他にもたくさんある海の民話を様々な科目と掛け合わせ、オリジナルのアレンジをしていただき、広く活用していただきたいと考えています。
イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています
参加人数:223人