いのちを育む“海” 海の生物多様性を学ぼう!~海と日本プロジェクト~
2018.09.10
いのちを育む“海” 海の生物多様性を学ぼう!は、日本財団が推進する「海と日本プロジェクト」のサポートプログラムです。千葉県勝浦市の磯で生物観察イベントを行い、海の生物多様性について学びました
多様な分類群が見られることを体験し、環境によって生物相が異なることを観察して、なぜ多様な生物がいるかを考察することを目的としています。
日程
8月11日 (土) 9:30〜15:00
開催場所
千葉県立中央博物館分館 海の博物館
参加人数
17名
主催
千葉県立中央博物館分館 海の博物館
勝浦で生物観察イベントを開催
開催日はお盆休みの初日。すでに遠ざかっていたものの、台風13号の影響で、開催地の勝浦市がある房総半島太平洋側の海は、少々うねりが見られました。でも、大潮の「海の博物館」前には磯が広がり、潮風も心地よく、好条件のもとで観察ができました。
午前9時30分に始まったイベントは、最初に、海の博物館講義室でレクチャーを受け、それから磯へ。観察用に用意したのは、採集した生きものを入れるバケツ、観察メモ用紙、タモ網、ビニール袋など。昼からは潮が満ちてくるため、効率よく調査を行うために、以下の順番で観察を行いました。
観察した生きもの
軟体動物のなかま(貝類):ヒザラガイ、ウノアシ、イボニシ、キクノハナガイ、イシダタミガイ、ケガキなど
刺胞動物のなかま:ヨロイイソギンチャク
節足動物のなかま(甲殻類):フナムシ、クロフジツボ、ホンヤドカリ、イソヨコバサミ、イソクズガニなど
棘皮動物のなかま:ヤツヒトデ、ニホンクモヒトデ、ムラサキウニ、バフンウニ、 イソナマコ
脊索動物のなかま:メジナ、ヘビギンポ、ヘンゲボヤ
環形動物のなかま:ミズヒキゴカイ
扁形動物のなかま:ウスヒラムシ
海綿動物のなかま:クロイソカイメン
褐藻のなかま:ヒジキ、オオバモク、ウミノトラノオ
紅藻のなかま:ピリヒバ
生物の多様性を体感するために、門、網、目、科、属、種の順位で分類される動物界の「門」に着目。刺胞動物(イソギンチャク、ヒドロ虫など)、海綿動物(カイメン)、棘皮動物(ウニ、ヒトデ、ナマコ)、軟体動物(巻き貝、二枚貝、イカ、タコ)、節足動物(ヤドカリ、カニ、エビなど)、脊索動物(ホヤ、魚など)などの門を意識できるように、観察場所で目に付きやすかった生きものを貝類から順に観ていきました。
勝浦の磯には、さまざまな生きものがいっぱい!
大潮で、200〜300メートル沖合まで岩場が海面に現れた観察場所は、磯遊びをする人々で賑わっていました。参加者の中には、磯で遊んだことがないという“初心者”も数名いて、最初のうちは岩場を恐る恐る歩いている人も。まず、一個所の岩場に生息する生物が、高さによってどう違うのかを観察しました。
「みなさん、ここを見てください。鳥の足跡みたいに見えるウノアシは岩の下の方、上の方にはクロフジツボがいます」
村田先生の説明で、参加者の目がいっせいに岩場の一個所に注がれました。
「でも、クロフジツボのさらに上には、ベッコウガサガイがいて、岩のてっぺんにはアラレタマキビがいます。この貝は日差しの中でも平気なんですよ」
岩場には、紅藻の一種のピリヒバや、房総半島の特産品としても知られるヒジキも生息していました。
「生きものを探すポイントのひとつは、大きめの石を動かしてみることです。石の下の方に隠れているかもしれません」と、村田先生。最初は緊張した表情を見せていた参加者たちも、このころには岩の上にしゃがみ込んで、「カニだ〜!」、「ウニがいた〜!」などと歓声をあげ、やがて黙々と生きもの採集に熱中するようになっていました。
さて、そのウニですが、この辺りの磯でよく見られるのは、ムラサキウニとバフンウニです。
目立って多く観察できたのはムラサキウニでしたが、多くは岩の穴に潜り込み、たまに潮だまりでじっとしている様子を観察できました。
「ウニは、とげの間から細長い管足を伸ばし、これを使って移動します。管足の先端には吸盤が付いているので、これを岩に吸着させるんですよ」
サポート役で同行していた海の博物館スタッフが、ムラサキウニとバフンウニを同じ潮だまりで見つけた参加者に説明していました。ほかの場所では、殻に花びら模様のあるタコノマクラという珍しいウニも。このウニは本州中部から九州南部に生息していますが、食用には不向きだそうです。
それにしても、わずかな時間でに3種類もウニが見つかったのですから驚きです。「外房」と呼ばれる勝浦の海では、アワビ、サザエ、イセエビなども獲れます。沖合で北からの親潮(寒流)と、南からの黒潮(暖流)が房総半島沖でぶつかり、多様な生きものを育んできたのです。そして、海の博物館の目の前で、その多様性を垣間見ることができるというわけです。
「貝殻が落ちていると思ったら、それはヤドカリです。1人で10匹、獲ってください」
しばらくすると、村田先生の声が響きわたりました。調査後半の“ヤドカリタイム”です。天候や海水温の違いによるものなのか、この辺に多いイソヨコバサミもホンヤドカリも昨年の観察会で採集したものと比べて、小型のものばかりが目に付きます。しかも、小指の先ほどのサイズなので、見つけるのが難しく、みな、悪戦苦闘といった感じです。ヤドカリタイムもいよいよ終わりに近づいた頃、「ナマコだ〜!」という声があがりました。
誰かが、小さなバナナほどのサイズの、ぬるりとしたナマコを見つけのです。
「わぁ〜、ナマコ」
初めて見たのでしょう、絶句する参加者もいました。
「昼になると潮が満ちてくるので、そろそろ戻ります」と、村田先生。わずか1時間半でしたが、それぞれのバケツやビニール袋には、“獲物”がたくさん。名残惜しそうに磯を後にした参加者たちでしたが、なんと、その1時間後には、さっきまでいた岩場が波に洗われ、海水浴客がテントを広げていた砂浜にも波が押し寄せていました。
勝浦の磯で採取した生きものを分類・観察
午後の部は12時45分からスタート。4班に分かれた机の上には、ヤドカリ以外の生きものが大きなバケツに入れられ、置かれていました。その生きものたちを、種類分けするのが、最初の作業です。一見、簡単そうに思えた分類でしたが、これが思いのほかに難航。「う〜、わからない」、「むずかしい」と、つぶやきがあちこちから聞こえていました。それでも何とか仕分けを終え、次はヤドカリ観察です。
捕まえたヤドカリの中から適当に選んだヤドカリ1〜3匹を、函館の海岸で採集した貝の殻を入れた水槽に移し、ヤドカリが今、使っている殻から函館産の殻に移る様子を観察するのです。
「ヤドカリは、居心地のよさそうな殻があれば、そちらに引っ越して、中の様子をもぞもぞと体を動かして確認します。でも、居心地が悪いとすぐに出て、元の殻に戻るか、別の殻を探して、そちらに移ります。移る前には殻を触ったりして殻の大きさを確認していますが、移るときは一瞬です。移るまでに5分くらいはかかりますが、よ〜く見ていてください」と、和田先生。
ヤドカリが入っている円柱のプラスチックケースを息をひそめ、じっと見つめる参加者たち。5分間のなんと長いことか!? しばらくすると、「あッ、動き出した!」、「移った、移った!」という歓声があちこちからあがりはじめました。
「あ〜、戻っちゃった」と、残念がる声も聞こえ、まさに和田先生のおっしゃったとおりの現象がくりひろげられていました。
さらに、ちょうど産卵期を迎えているイソヨコバサミのオスが、自分より体の小さなメスを抱え込んでいる様子なども観察できました。
勝浦の海で採取したヤドカリについての講義
最後は村田先生と和田先生による講義です。まず、村田先生が磯で採集したヤドカリの種類と利用貝殻、採集した場所の分類をグラフ化して説明。イソヨコバサミとホンヤドカリが目立って多いものの、全部で6種類ものヤドカリを採集できたことや、採集場所による種類の違いなどが歴然となり、みな驚いた表情を浮かべていました。
ヤドカリの採集状況を確認した後は、和田先生からヤドカリの繁殖期の行動について、説明を受けました。1匹のメスと一緒にいるオスのそばに、別のメスを放した場合のオスの行動を観察した結果、メスのからだの大きさや、別のメスを放したときの状況などがオスの繁殖行動に影響を与えるそうです。生きもの図鑑などの書籍からはなかなか学べない実験成果を和田先生から直に教わり、みな、興味津々といった面持ちで講義に耳を傾けていました。
今回参加した茂原樟陽高等学校科学部では、ギンポやカクレクマノミを水槽で飼育中だとか。「2学期からはヤドカリも飼おう!」と部員たち。どうやら、ヤドカリ観察で、知的好奇心がくすぐられたようです。
「このイベントは、海に行けるし、勉強もできるので参加しました。今日は面白かったです!」と、個人で参加した千葉県内の畑山さんは、参加者の中で唯一の女子。彼女はもちろんのこと、男子諸君も最初から最後まで、真夏の海のように目を輝かせていたのが印象的なイベントとなりました。
<チラシ>
イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています