海遊館で観察!大阪湾を知ろう! 〜海と日本PROJECT〜
海遊館で観察!大阪湾を知ろう!は、日本財団が推進する「海と日本プロジェクト」のサポートプログラムです。
2017.09.15
海遊館で観察!大阪湾を知ろう!は、日本財団が推進する「海と日本プロジェクト」のサポートプログラムです。水質汚染問題など環境問題への意識向上を目的に、さまざまな角度から5カ月かけて大阪湾を観察しました。
大阪港に面する海遊館では、地元の中高生を対象に独自の学習会等をかねてより行ってきました。水質汚染問題がいまも解決されていない大阪港、大阪湾の環境保全に対する意識向上を目的に、大阪港、大阪湾に生息する生き物の状況を、さまざまな角度から約5か月間かけて観察しました。
日程
1.4月 1日(土)9:30〜16:30
2.5月27日(土)10:00〜12:30
3.6月10日(土)10:30〜12:00
4.7月 8日(土)9:30〜12:30
5.7月29日(土)9:30〜14:00
6.8月 5日(土)10:00〜12:30
7.8月 9日(水)13:30〜15:30
開催場所
1.船による大阪湾視察(スナメリ調査、水質調査、ノリ養殖場)
2.第1回天保山岸壁での付着生物調査
3.南港野鳥園干潟での生物調査(環境学習 )
4.南港野鳥園干潟でのカキ礁設置作業(環境改善)
5.大阪湾とれとれ体験(堺出島漁協「とれとれ市」)
6.第2回天保山岸壁での付着生物調査
7.南港野鳥園での水鳥の飛来調査およびカキ礁の生物調査
参加人数
合計144人
(1:34人、2:23人、3:21人、4:12人、5:24人、6:13人、7:17人)
主催
海遊館
4月1日:船による大阪湾視察(スナメリ調査、水質調査、ノリ養殖場)
体長2mほどのハクジラの仲間スナメリ。日本から台湾にかけて沿岸に生息し、日本では仙台湾~東京湾、伊勢湾~三河湾、大阪湾を含む瀬戸内海~響灘、大村湾~有明海~橘湾で暮らしているといわれています。だが、大阪府のレッドリストでは、「絶滅の危険が増大している種」に指定され、生息状況はあまり把握されていません。
海遊館では2010年からスナメリの調査を開始しました。岸和田市の沖から関西国際空港の南側にかけた海域でスナメリを目撃し、大阪湾にもスナメリが生息していることを確認しています。今回の視察では、チャーター船で約1時間かけて天保山岸壁から出港。関西空港近くで、約15分ほど船上から観察を行いましたが、スナメリを確認することはできませんでした。
次に、大阪湾南東部の阪南市にある西鳥取漁港の漁業設備やノリ養殖場を視察しました。ノリ養殖は播磨灘(兵庫県)や大阪湾の淡路島側(兵庫県)で盛んに行われ、大阪府側では3軒の漁業者のみとなりました。最盛期の1970年代には70軒もあったそうですが、価格低下による経営難や海岸線の埋め立てが進むなど経済、環境の両面から事業者が減ってしまったとのことです。
現在残っている3軒の製品は、大阪府が選ぶ特産品「大阪産(おおさかもん)」というブランド認証を受けています。これら「阪南の海苔」は肉厚で、しっとりした味わいが特徴。
養殖場は阪南市の西鳥取港から500mほどの沖にあり、紅藻類のスサビノリを養殖しています。船上からその様子を観察。最近は淀川や大和川などの水質汚染も改善したため、窒素やリンによる富栄養化には歯止めがかかりましたが、逆に栄養分が不足して、ノリの色が薄茶色になってしまうという問題も出てきたとのことです。
船上からの視察後は、協力していただいた名倉水産のノリ加工場で板海苔の製造工程の説明を受け、敷地内で海苔すきを体験しました。生ノリを木枠付きのすだれに流し、天日で干す。乾燥には丸1日かかるため、当日は食べられなかったが、これは後日のお楽しみ。当日は、機械製造の板ノリを試食させてもらい、風味豊かな味に大喜びでした。
また、このあたりでは底びき網や流し刺し網漁も盛んです。そこで、西鳥取漁協の協力で漁師さんから説明を受け、さらに、漁船や漁具の見学も行いました。
5月27日・8月5日:天保山岸壁での付着生物調査
大阪港は大阪湾の奥にあり、安治川や木津川などが注ぎ、神戸港とともに、次世代高規格コンテナターミナルを形成するスーパー中枢湾に指定されています。海遊館がある天保山ハーバービレッジには天保山岸壁があり、海外からの豪華客船も頻繁に入港。また、安治川の対岸にあるアミューズメント施設と連絡する船も行き来しています。
天保山岸壁において、水面よりそれぞれ55cm・150cm・350cm下に付着基盤を沈めました。その付着基盤を5月27日、8月5日の2回にわたり引き上げ、それぞれの深さの基盤上で採集される生物を調査・観察しました。この付着基盤はカキ殻を活用したものです。
2回目となった8月5日の調査・観察は、地元の築港中学校、大阪府立市岡高等学校の生徒10名と引率の教師2名が参加しました。午前10時、対岸からの連絡船「キャプテンライン」の到着を待ち、桟橋に仕掛けておいた付着基盤を海遊館スタッフが回収し、実習室で観察を行いました。
2013〜2016年までの調査では、水温が高い8~9月は、採集できる生物数はぐんと減ります。これは、高水温に加え底層の酸素濃度が極端に少なくなり、自力で動ける生物は逃避できますが、そうではない生物は死んでしまいます。
今回は、当日は36種類ほどの生き物が見つかりました。これは、種数が減少する夏場としては予想外に多いものです。この後、数日かけて精査する予定となっています(8月22日現在54種)。
採集されたもののなかには、2012~2015年の調査で、大阪湾で初めて発見されたコエダカイメンも含まれていました。これは小枝のような細い突起があり、天保山岸壁と同時期に住吉川河口でも発見されていますが、日本での分布や生態についてはまだ知られていません。1990年代に三重県で見つかり、拡大状況が把握できていない外来種のオショロミノウミウシ科の一種も、数年前の調査に引き続き見つかりました。
7月29日:大阪湾とれとれ体験(堺出島漁協「とれとれ市」)
大阪湾の湾奥部に位置する堺市。堺から岬町までの泉州沿岸では、いまも13漁港が健在しています。なかでも堺(出島)漁港にはスズキ、キジハタ、サワラ、クロダイ、マアジ、カレイ、タチウオ、アナゴ、エビ、タコなども水揚げされ、漁港に併設されている「とれとれ市」は、買った魚をその場で食べられるとあって、観光名所にもなっています。
今回のイベントでは以下の順で、大阪湾の魅力を中高生に実感してもらいました。
1)大阪湾の漁業と海の環境再生の取組について講義。
2)出島漁港より遊漁船に乗船し、大和川河口の人工干潟や人工島の緩傾斜護岸、野鳥園を海側から視察。
3)出島漁港に係留した底びき網漁船の甲板に移動し、漁師さんより底びき網漁の漁具の構造や仕組みなどを教わる。
4)底びき網の漁獲物の一部をわけていただき、各種生物を選り分けと観察を実施。その後、大阪湾の漁業生物に詳しい、元大阪府立環境農林水産総合研究所主任研究員の鍋島靖信氏による解説。
5)昼食時に、大阪湾産のアカエビやトラエビのから揚げを試食。
6月10日:南港野鳥園の干潟での生物調査
大阪市港区にある海遊館から車で5分ほど南に、人工干潟を擁する大阪南港野鳥園があります。大阪港から大阪湾に出てすぐの場所で、遠くに六甲山(神戸市)の山並みや神戸市の高層ビル群、明石海峡大橋などを望む絶景ポイントです。オープンしたのは1983年9月です。
この野鳥園は、シギ類、チドリ類などシベリアーオーストラリア、ニュージーランドを往復している渡り鳥たちが羽を休めるために集まってきます。人工干潟とはいえ、ここには渡り鳥のエサが豊富にあります。今回、3回にわたり行われた調査では地元の築港中学校と市岡高等学校の生徒たちによる生物調査、干潟環境の改善策の一環としてカキの密集場所からのカキの移動と、カキ礁造りを通じて環境学習を行いました。
初回の6月10日は、南港野鳥園の干潟で、海岸生物の調査を行い、カニ類、貝類などを採集し、観察しました。また、調査地の周辺で、絶滅危惧種のハクセンシオマネキのウェービングを観察しました。ハクセンシオマネキはカニの仲間で、河口付近の干潟で群れをつくります。
この日、確認できたのは40種類。ハクセンシオマネキなど代表的な生き物については、現地で説明しました。
確認種
海藻類:アオノリ類、ムカデノリ
貝類:タマキビガイ、イボニシ、クロシタナシウミウシ、ホトトギスガイ、アサリ、ムラサキイガイ、マガキ
ゴカイ類:サミドリサシバ、イソゴカイ類、ミズヒキゴカイ
カニ類:アカテガニ、アシハラガニ、イソガニ、ヒライソガニ、ケフサイソガニ、ヒメベンケイガニ、ハクセンシオマネキ
その他:タテジマイソギンチャク、ウスヒラムシ、シマウミグモ、タテジマフジツボ、アメリカフジツボ、モズミヨコエビ、ポシェットトゲオヨコエビ、ニホンドロソコエビ、トンガリドロクダムシ、トゲワレカラ、フナムシ、イソコツブムシ属、シリケンウミセミ、ユビナガスジエビ、スジエビモドキ、テッポウエビ、ユビナガホンヤドカリ、コブヨコバサミ、イトマキヒトデ、シロボヤ、ボラ
7月8日:干潟の環境改善作業
近年、南港野鳥園の干潟ではカキ礁が拡大し、干潟を広く覆いはじめました。そのため、
1)カキ礁が覆い、小型シギ・チドリ類が採餌しにくくなったエリアのカキを移動し、砂泥干潟が現れるようにする。
2)カキ礁のもつ機能(水質浄化と多用な生きもの生息環境)を維持する。
3)水鳥が餌場として利用できるカキ山を造ることとした。カキは水中の有機物を吸い、ろ過する働きがあり、赤潮の発生を防ぐ。
ことを目的として、環境改善作業を行いました。
当日は、除去したカキを干潟として干出しない2か所に移す作業を行いました。参加した生徒たちを中心に、干潟を覆っているカキを拾い集め、また、汀線(ていせん)よりも深い場所に設置した鉄枠まで、バケツリレーでカキを運んで投入しました。その結果、カキに覆われていた干潟面積は減り、少し深い場所には、カキ山が2つ完成しました。
8月9日:干潟改善エリアの生物調査
7月8日に実施した、干潟の環境改善作業(密集したカキの移動。移動場所にカキ山設置)の成果を確認しました。さらに、干潟の生物調査とカキ礁の生物利用状況の確認(水中ビデオ撮影&生物採集)を行いました。その結果、
1)多数のエビ・カニなどの小動物やキチヌ、チチブなどの魚類が写っており、カキ礁を利用していること。
2)今回の調査で、前回移動したカキの状況を確認した。移動後もカキは死滅することなく、カキ礁として多くの生物が生息する環境を提供していたこと。
3)移動跡の干潟部分も、調査の結果、環境の劣化は見られなかったこと。
がわかりました。
5か月間にわたり、大阪湾を様々な角度から観察し、自然の再生力の大きさを実感。充実したプロジェクトとなりました。
参加者の声
・いろんなものが見つかって楽しかったです!
・海では干からびて見えたゴカイが、活発に動いていたので驚きました。
古くは「茅渟(ちぬ)の海」とよばれた大阪湾。シルクロードと日本をつなぐ玄関口として栄え、遣隋使や遣唐使も大阪湾から出発したといわれています。
地形的には、大阪平野と淡路島に囲まれた楕円形の海域を指し、面積は約1450㎢、海岸線は約540km。淀川、大和川、武庫川、大津川などの川が注ぎ、これら河川の水質が大阪湾の水質に影響を与えていました。最近はこれら河川の水質が改善されたため、大阪湾の水質も改善されつつありますが、海底にたまっている汚泥の問題はいまも解決されていません。
<告知チラシ>
イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています