海の課題を解決する活動PRコンテスト「うみぽす甲子園」誕生の裏側<助成事業者インタビュー>
2015年スタートの「うみぽす」、開催2年目の「うみぽす甲子園」を運営する海洋連盟にインタビュー
2024.02.29
「地元の海をスターにしよう」をコンセプトに2015年からスタートした海のPRコンテスト「うみぽす」は、日本財団 海と日本プロジェクトの助成事業のひとつです。
ポスターの部やポストカードの部、近年ではインスタの部などが設けられ、毎年、大人はもちろん学生や未就学児も対象にした幅広い層から、海をPRするたくさんの作品が寄せられています。
2022年からは高校生を対象に「うみぽす甲子園」も開催。2年目となった2023年度は、「2人めを生み出せる1人めになろう」を大会スローガンに掲げ、212チームが参加され、地引網から始まる漁業の活性化をテーマに取り組んだ、広島県の近大福山地引網大隊サイエンス・オブ・エンパイアチームがグランプリに輝きました。
うみぽす甲子園は高校生が自ら海の課題を見つけ出し、解決するためにいかに周りを巻き込んで活動していくか、その発想や内容を競うものです。ファイナル出場チームはポスター制作のほか、4ヶ月間にわたる活動に取り組み、決勝プレゼン大会で発表してもらいました。
決勝大会を観覧した大人たちも驚くレベルの高さで、高校生自身も熱く取り組んだ活動のなかでさまざまなことを吸収した様子です。
うみぽすを運営するのは「3000万人を海へ」と標榜する海洋連盟。
海は日本人にとって一番身近な自然であり「もっと海が生活の一部になればいい」と語る海洋連盟の内田聡さんに、コンテスト企画の誕生の経緯や参加した高校生たちについてなどお話を伺いしました。
「うみぽす」「うみぽす甲子園」誕生のきっかけとは
うみぽすの立ち上げについてお伺いすると内田さんは、まず「海起こしの活動を行おうとするとき、参加に尻込みする人は多いんです。海の活動をするにはそれなりの背景を持った人でないと…と思い込んでいるんですね。時間と日にちが合わないという人もたくさんいます」と指摘。
うみぽすは、そんな参加ハードルの問題を解決するために、代表の妹尾博之さんと共に企画したものだそうで、“好きな海や地元の海をアピールするポスターをつくって宣伝すること”なら、年齢や場所、海への関係性の有無を問わず誰でも参加できるはず。実際に、2015年にスタートして以来、毎年たくさんの方にご応募いただいています。
その運営活動の一環で、各地でポスターのつくり方、キャッチコピーづくりをレクチャーするワークショップも実施してきました。そこには小学生や高校生も参加されていましたが、2020年はコロナ禍で開催できなくなり、他校との接触がなくなった学校からの要望を受けて、エリア関係なく参加できる合同ワークショップをオンラインで開催することになったそうです。
そんなとき、「ある高校の先生から『同一県内でワークショップを受けている学校はありますか?』と聞かれて学校名をお伝えしたところ、『その高校には負けたくない』とおっしゃっていて。その負けん気は面白いな!と思ったんです。学校間の競争意識があることに気づいたことから『うみぽす甲子園』が生まれました」と、企画に至った経緯を教えてくれました。
2023年度は“活動”に注目。進化した「うみぽす甲子園」
うみぽす甲子園では、まず高校生たちがチームをつくってエントリー、海の課題を見つけ出し、解決するための活動をポスターに表現して、プレゼンで競います。
初開催となった2022年度は、6月に募集を開始し8月には決勝プレゼン大会開催という短期決戦になりましたが、「高校生の動きが想定した以上にアクティブでした。決勝大会後も活発に活動していて、優勝を逃したチームも自主的にごみ拾い活動をしたり学童で啓蒙したりされる高校が多くありました。それならば次回は、優勝チームに活動支援金を贈るのではなく、ファイナリストが選出された時点で全チームに支援金を渡して活動に使ってもらったほうが良い」と考えて、2023年度はポスター制作とともに、実施した“活動”に注目するスタイルに進化させました。
「我々海洋連盟の活動もそうですが、サポートしてくれる人がいないとできないことが多いんです。高校生たちも自分たちだけで完結するのではなく、周りを巻き込んで仲間を増やす取り組みをしてもらおうと、2023年度は『2人めをつくる1人めになろう』という大会スローガンを掲げました」
結果、2023年度のエントリー数は212チーム。クラスメイトだったり、部活動メンバーだったり、探求学習のグループなど、さまざまなチーム編成がみられました。たとえ普段は内向的なタイプだとしてもエントリーする時点で意欲は高く、皆さんがそれぞれの力を存分に発揮されていたそうです。
真摯な取り組み姿勢とハイレベルなアウトプットに高評価
内田さんに決勝プレゼン大会を振り返ってもらうと、「各チームともそれぞれオリジナリティにあふれていて脱帽でした。優秀です。プレゼンもさまざまなツールを駆使していて、そういった教育も受けているのだなと感心しました」と評価されました。
ポスターのクリエイティブは初年度の方がバラエティ豊かだったかもしれませんが、うみぽす甲子園は単純なポスターコンテストでありません。
「目的は活動を広げていくこと。周りの人を動かすためにどう伝えるかが大切です。キービジュアルとしてポスターを制作するほか、動画をつくったり直接会って対話をしたり、それらも含めてクリエイティブでした」
参加した高校生たちが感極まって涙を浮かべる場面も多く見られましたが、
「印象的だったのは、あるチームがなぜ自分たちはグランプリをとれなかったのか?と審査員に直接質問しに行っていたこと。その勇気と行動力はもちろん、悔しさのなかにはそれだけ準備をしてきたという熱意があったからこそだと感じ入りました」
こうした経験からさまざまなことを吸収して成長していく姿を見て、みずみずしい感受性をもつ高校生らしさを感じたそうです。
一方、高校生の取り組みを目にした大人の反応についてもお聞きしてみました。
「高校生たちが選んだテーマは多ジャンルに渡るので、審査するほうも大変なのですが、審査員の皆さんからは『新しい視点や発見もあって意義深い』という声をいただいています。初めて審査員を務められたボーダレスジャパンの社長も『(ビジネスで社会貢献活動をしているが)そのままソーシャルビジネスに昇華できるようなものもありました。仲間になってほしい高校生もたくさんいました』とレベルの高さに驚いていました」
大会後も各地で続く高校生たちの熱気ある活動
取り組み姿勢やアウトプットが高く評価され、高校生たちは大会後も地元メディアなどから注目を集めているようです。
鳥取県から出場した「青谷高校青谷ごみ当番」チームは、県から海ごみ活動を一緒にやりたいとの声がけがあり、地元大学も交えたコラボレーション企画を実施したそう。
このチームは甲子園への参加をきっかけに活動を始めたそうですが、ファイナリストに選出後から活動が本格化。「来年は自分たちでやりたい」という後輩たちがバトンを受け継ぎ、最終的に学校の部活動として承認されたそうで、活動環境も大きく変わりました。
また準グランプリを受賞した京都の「うおゑん」(立命館高等学校)チームは、もともと代表者が自ら立ち上げたNPOで未利用魚を無駄にしないための活動をしていました。その発信手段のひとつとしてうみぽす甲子園に参加したそうですが、ここで準グランプリを受賞したことで箔が付き、その後の活動がしやすくなったと喜んでもらっています。
「各チームが持っている背景が違うので、参加者たちがこの経験から受け取ったものはバラバラなんだと思います。高校生向けの数あるプレゼン大会の一つとして参加されるチームもあると思いますが、ファイナリストチームになれば支援金の管理から行わなければなりません。かなり“実質的な活動経験”になったのではないかと思います」と内田さん。
「面白かったのは学校同士の交流が、2022年は決勝大会当日の一瞬しかありませんでしたが、今年度はオンライン説明会や準備のやりとりなど決勝大会前から多くあったんです。そのなかで『やり方を教えて!』『手伝いに行くよ!』みたいなチーム同士の連帯が生まれて、うみぽす甲子園をアピールする動画CMを複数チームで共同制作したりしていましたね」
こうした高校生同士の繋がりは、大会後もエリアや学校の枠を超えて続いているのだとか。
そんな高校生たちの変化や成長を伝えていこうと、2023年度のファイナリストたちの活動を伝える外伝レポートとして全14話のノンフィクション短編小説集「(仮称)うみぽす甲子園2023外伝」も現在制作中とのこと。追跡取材で明らかになる各チームのストーリーに、ぜひご注目ください。
海洋連盟が海の課題に向き合う理由とは?
「3000万人を海へ」。これは海洋連盟を立ち上げた10年前に掲げたスローガンだそうです。
当時、海水浴客はすでにピーク時と比べて3000万人減少していましたが、逆に言えば実績があるぶん、減った3000万人は取り戻すことが可能だと考えたのだそう。
「創始者が離島の活性化を活動テーマにしていたこともあり、“人が足を運ぶこと”が課題解決につながるはずだという発想のもと、うみぽすも生まれた。写真を撮るためにでも海を訪れてくれればと思います」
内田さんご自身は、子どもの頃は目の前の海が遊び場で、生活の一部だったそうで、「日本人にとって一番身近な自然が海であってほしいと思っています。草むらに入って虫を探すより、海に潜って探すほうが生き物にはいっぱい出会えると思う」とおっしゃいます。
では10年後、20年後にどんな未来を期待していますかと伺ってみると、「クルマの免許と同じぐらい、みんな船舶免許を取ればよいのにと思っています」と、考えたこともなかった視点で回答をいただきました。
そのココロをさらに伺ってみると、
「週末でも平日でも、逗子から平塚まで海にいっぱい人がいるんです。海で活動している人が景色の中で見える街と、見えない街がある。日本の大半は見えない街。だから自分たちの生活に海が必要だという実感が持てないのだと思うんです。船の免許を持つことが当たり前になれば、海が生活の一部になると思うから、だいぶ違うんじゃないかなと思うんです」
ユニークな発想だなと感じましたが、その思いを聞けば納得です。
身分証明書として船舶免許を提示する未来があるとしたら、なんだかワクワクします。
同時に、うみぽすでは今後、どんなワクワクするアイデアが提案されるのか、期待が高まります。ぜひご注目ください。