絶滅危惧種も生息する都会の干潟を守る。多摩川とびはぜ倶楽部<助成事業者インタビュー>
多摩川河口に広がる大師橋干潟は、ごみ流出を防ぐ最後の砦。キレイになった干潟には貴重な生き物たちも復活!
2024.12.05
「多摩川大師橋干潟」は、羽田空港(東京国際空港)の横を流れる多摩川の河口付近に広がる干潟です。
カニや貝、魚、野鳥など、絶滅危惧種を含む多種多様な生き物が生息していますが、同時に、上流からも海からも、ごみが集まってしまう場所でもあります。
多摩川とびはぜ倶楽部は、そんな都会に残された貴重な自然を守るため、大師橋干潟の素晴らしさを多くの方に知ってもらおうと、長年、この干潟で自然観察や環境保全活動などを行なってきた団体です。
「子どもたちが裸足で遊べる干潟づくり」を活動理念に掲げて、日本財団 海と日本プロジェクトの2024年度助成事業「干潟環境の向上プロジェクト」では「定例干潟の観察会」をメインに、干潟のごみ回収に取り組む「羽田ふるさと再生プロジェクト」も実施中です。
清掃活動を続けた結果ごみも少なくなり、いまは干潟に多くの生きものたちが帰ってきて、授業や休日の活動でここを訪れる子どもや親子も増えているそうです。
今回は、多摩川とびはぜ倶楽部メンバーの中平繁さんと岡本浩子さんに、干潟の魅力や活動内容などについて伺いました。
絶滅危惧種も生息!都会の干潟を守るため観察会やごみ拾い活動を継続中
多摩川とびはぜ倶楽部が4月から9月までのメインの活動としている「定例干潟の観察会」は、実際に干潟に降りて、カニや貝などを見つけて触って観察するイベントで、ごみ拾いも実施します。ここで見つかるカニは常に8種類ほどと、他の干潟と比べてもだいぶ多いそうで、見渡す限り一面がカニだらけになる、なんて風景も見られるのだとか。
参加者は親子がメインですが、地元からだけでなく、県外など遠方からの参加が意外にも多いそう。干潟自体が少ないうえに、ここは都心からも近く、貴重な場所だと感じていただいているようです。
夏休みには通常の観察会ではできないことをと、小学生向けにサマースクールも実施しています。たとえば干潟を離れて多摩川中流で生物をつかまえるガサガサ体験(網をガサガサと揺らして生物を捕る)や、公園でセミの幼虫を探して羽化までを観察する会などを開催。ふだん川に入って遊ぶ機会のない子どもたちは皆楽しそうで、多摩川の絶滅危惧種を探すのは同行した大人たちも興味を引かれているようでした。
ほかにも10数年続けているというのが、近隣小学校での「授業支援活動」。学校での事前学習と干潟での実習を行ないますが、「小さい頃に参加しました!」という大人からの声を聞くこともあるのだとか。
そうした活動実績を踏まえてか、全国で行われている国交省の「水辺の楽校」事業にも、大田区からの依頼があって携わっています。
そして、潮の関係で干潟が出なくなってくる冬の期間には、清掃活動を主に行う「羽田ふるさと再生プロジェクト」を実施しています。
小学生や幼稚園児など参加者の低年齢化がありましたが、大人だけのグループでの参加も増えてきました。環境問題への関心の高まりが反映されているようです。
干潟での体験が学びに。何度も繰り返し参加してマイスターに認定
多摩川の河口部は一般の人からあまり関心を向けられていない場所で、「干潟はごみだらけで汚いし人目につきにくくて危ないから、子どもは行ってはいけない場所」と思われていました。
そのような状況下で、大師橋干潟の豊かさを見つけたNPOが清掃活動を開始したのが20年ほど前。なんとか自然観察会ができるようになった頃、多摩川とびはぜ倶楽部として独立し、活動を継続してきたそうです。残念なことに2019年の台風19号の影響で粘土質のヘドロが流れ込み、広い干潟の一部しか歩けなくなってしまいましたが、そこから5年が経った今、少しずつですが改善が見られるようになってきました。
イベントに参加した子どもたちの様子を伺ってみると、
「学校の教室で活躍する子どもと、観察会で活躍する子どもは違うんですよね。観察会では泥んこになるのが苦手な子もいますが、干潟に入れば楽しくて夢中になって、最終的には楽しかったー!と喜んでくれます。
なかには、自分で靴の泥汚れを落としたことのない子もいて、どうすればいいのか戸惑った様子も見受けられましたが、そんなことすら勉強になったようでした」と岡本さん。
体験を通していろいろ学んでもらっているようですが、2023年からは「干潟マイスター養成講座」も実施中です。
これは、観察会で希望者にスタンプカードを配布し、イベントの参加ごとに「干潟の歩き方」「カニの見分け方」などの認定項目をクリアしてもらい、スタンプを集めていくというもの。スタンプ10個でマイスターに認定されますが、現時点での認定取得者はまだ2名とのことで、なかなか難しいようです。
「子どもたちに、何回も来てよかった!と思ってもらいたくてつくった制度です。マイスター取得者にはいつかスタッフとして参加してもらいたいなと考えていて、イベントでの説明を任せてみるなど試みているところです」と、先のことも見据えていらっしゃいました。
活動に一歩踏み込めていない人の後押しも。多摩川とびはぜ倶楽部の役割
イベント運営で注力されているポイントなどをお聞きしてみると、
「都会のど真ん中に、想像を超えた自然が残っているんです。それは自然に残ったものではないので、この貴重な自然環境を守っていくために、私たちが引き続き頑張っていく必要があると思います。
ランニングやサイクリング、犬の散歩などで多摩川沿いを訪れる人たちのなかには、自然環境を守るために何かしたいけれど、なかなか一歩を踏み出せない、という人もいます。そうした人たちに一歩を踏み出してもらうための倶楽部だと思って取り組んでいます」と中平さん。
岡本さんも「ごみは上流からも流れてくるし、海からもあがってくる。干潟はごみがいちばん集まってしまうところ」とした上で、
「ここが、海にごみを流れ出さないための最後の砦だと思って、清掃活動に力を入れています。そのために心がけているのは、まず多摩川を好きになってもらうこと。好きになれないと、守ってももらえないと思うので。時には生えている草花の話をしたり、カニを捕まえてみたり、このゴミはどこから来たのかな?などと会話しながらごみを拾ったりと、参加される皆さんが飽きない工夫を心がけています」と前向きです。
回収したごみの処分とスタッフの確保。いま見えている課題とは
スタッフみんなで熱心に活動されていることが伝わってきますが、活動のなかで苦労されている課題点はどんなところなのかも、伺ってみました。
「ひとつは集めたごみの処分問題です。干潟は国交省の管轄なので、干潟で出たごみを大田区に処理してもらうのは難しいんです。関係者とも話をしていますが、とくに泥の付いたごみは産業廃棄物の扱いになるので、どこかに移して埋めるしかありません」という現状に、中平さんたちもジレンマを感じているそう。
また、「運営スタッフ(会員)は複数のボランティアに携わっている人や仕事をしている人もいて皆さん多忙ですし、その多くが60歳以上と高齢化も進んでいます。子ども好きなメンバーが多いと思うのですが、干潟を未来に残すためにも、会員集めも頑張りたいところです」と岡本さん。
岡本さんご自身は「大田区環境マイスター養成講座に参加して多摩川とびはぜ倶楽部を知ったのが、会員になるきっかけでした。どんなところだろうと現場へ行ってみたら興味が湧いて」とそのまま入会を即決したそう。
もともと環境を専攻していて、高校生のときは毎年、生物部の合宿で海へ行き素潜りで生き物を獲ったり、人工授精の実験をしたりしていたとか。
「ここは希少種の生物も見つかる貴重な環境です。多様性が育まれているのは岸辺の自然林のおかげだと思いますが、伐採されそうなところを倶楽部が反対して残してもらいました。川をキレイにすることは、海をキレイにすることにつながります。そんな意識でこの活動に取り組んでいます」と教えてくれました。
また、石川県能登町のご実家の目の前が川で、子どもの頃はよく泳いでいたという中平さんは、
「トライアスロンをやっていたので、多摩川は海も近くて、サイクリングもできるし、こんなに楽しいところはないと思っています。羽田はもともと漁村なので船も見えるし、ちょっとうるさいけれど飛行機が飛ぶ風景があるのもイイ」と、絶滅危惧種と飛行機が共存していて面白いと笑顔です。
以前から個人でごみ拾いをされていて、個人での活動に限界を感じはじめたときに多摩川とびはぜ倶楽部を知って入会したそうで、
「いままでも近隣の町会に出向いて協力を依頼したり、ポスティングをしたり、地道なPR活動をしていますが、今後はもっと認知度を高めていきたいです」とのこと。
PR資料をつくって公共施設に配布したり、今年は大田区環境動画コンテストにも応募されています。
動画は「【大田区環境動画コンテスト】アイドルの敵は誰だ?!」のタイトルでYouTubeにもアップされているのでぜひご覧ください。
そして「いつか、キレイになった多摩川をのんびりと眺めながら、自然や干潟について語らうようなイベントができたらと思っています。羽田に新しく公園ができるというので、多摩川と親しむプランの提案などもさせてもらったころです」と意欲的に取り組まれていました。
最後に、「干潟は台風などの影響で環境が変わります。前述のヘドロもそうですが、いまは草が生えてきて干潟が小さくなってしまいました。ところが鳥は増えているようにも感じます。毎年2月には野鳥観察会の開催を予定しています。絶滅危惧種も来るので人気なんです。そんなふうに環境の変化に合わせながら、楽しむ工夫をしていきたいと思っています」とあらためてアピール。
イベントは予約不要で誰でも気軽に参加でき、LINEのオープンチャットでも質問を受け付けているそうなので、ぜひ利用してみてください。
たくさんの小さな生き物たちが棲む、大都会の貴重な自然を守り続ける取り組みに、今後も注目していかなければと思います。