西表島で手つかずの海洋ごみ回収ツアー開催!西表財団<助成事業者インタビュー>
自然と文化を知るガイドツアーを盛り込み、西表島のアクセス困難な海岸で大量の漂着ごみを回収。
2023.08.03
一昨年、世界自然遺産に登録された西表島。
豊かな自然と、自然と共に暮らしてきた人々の文化が残る島ですが、そんな美しい島でも海洋ごみ問題は避けて通れない課題の一つです。
海外からも多くのごみが漂着し、陸路では立ち入れない海岸に山積しているという現状があり、これをどうにかしたいと、西表財団が地域住民や観光客を巻き込んで「西表島の手つかずの海洋ごみ回収プロジェクト」に取り組んでいます。
6月には第1弾として、地元住民の皆さんの参加を募り、かつて集落があったという地域へチャーター船で渡り、海岸の清掃活動を実施。大量のごみを回収するとともに、およそ50年前や80年ほど前まであったという集落の跡地を散策して、豊かな海の恵みを享受していた当時の島の暮らしや文化に、改めて思いを馳せました。
「大量のごみにスタッフでさえ手強さを感じました。参加者の皆さんは驚きながらも黙々と回収作業に集中されて、たくさんのごみを回収した達成感を感じていらしたようです。今では知る人の少ない島の歴史や文化も垣間見ることができ、参加して楽しかったと好評でした。コスト面は課題ですが、地元住民や行政の支援、観光客の皆さんの応援などを得て、今後の定期的な開催につなげていきたいと思っています」という西表財団の徳岡春美さんに、詳しくお話を伺いました。
目が届きにくいアクセス困難な海岸や海中のごみを回収するプロジェクト
今年の海と日本プロジェクトの助成事業の一つ、西表財団が取り組んでいる「西表島の手つかずの海洋ごみ回収プロジェクト」では、「陸からアクセスできない海岸の定期清掃の仕組みづくり」、プロダイバーによる「海中・海底に滞留するごみの回収」、年度末には「海洋ごみの現状報告イベントの開催」を予定しています。
すでに6月に2回、陸路からアクセス困難な海岸の清掃イベントが、島民の皆さんの参加によって実施されました。
「今回訪れた網取、崎山エリアにはかつて集落があったのですが、いまは地域の人でもなかなか行けない場所になっています。まずはここで、地元の海ごみの現状を知ってもらおうと考えました」
2日間で40名ほどが参加し、各日1時間~1時間半ぐらいの活動で、なんと容量1000リットルのごみ袋(フレコンバック)40個分ものごみを回収しました。
以前行われた調査によると西表島のごみのほとんどは海外からの漂着ごみだったそうで、今回も多かったのはプラスチック製の生活ごみ。ほかにブイや発泡スチロール製の漁具なども見られたそうです。
次回は、観光客を募って秋に清掃イベントを開催。そのほかにも地域の子どもたちを対象にした回も実施する予定です。
ガイドツアーを盛り込んでツアー化。埋もれていた島の歴史や文化も再認識
参加の対象を観光客にまで広げていることや、エリア散策という観光要素を組み込んだ理由を伺ってみると、以前、他のNPOでの活動中に、観光のお客さんから「ビーチのごみをなんとか回収できないか」「お金を払ってでもごみ拾いに協力したい」という声をいただいていたそうで、
「でも、ごみ処理の問題などがあって観光客には自由にごみ拾いしてもらえないのが実情なんです。その点をクリアできないかなと、ごみ拾いと観光を組み合わせ、旅行者にも参加してもらえるツアーに仕立てました」と企画に至った発端を教えてくれました。
SDGsが注目される近年は、修学旅行のプログラムにビーチクリーンを入れられないかという問い合わせも多くあるのだとか。そうしたニーズは増えるものの、今回のような離れた海岸で実施するにはダイビング船のチャーターなど地域の方々の協力が不可欠で、協力が得にくい観光シーズンにニーズを満たす複数回の開催は難しいのが現状です。
「今はまだ10月の次回開催へ向けて準備中ですが、ゆくゆくは定期的な開催ができるような仕組みづくりを考えていて、関係各所への調整も進めていく予定です」と意欲的。
実際に6月の第一弾の参加者たちの反応はたいへん好評で、ごみの量が多い大変な現場だったにも関わらず、皆さん参加してよかったと満足されていたとか。
また、人が住まなくなって50年、あるいは80年近く経つエリアのガイドツアーでは、家屋の石垣や御嶽の材質がテーブルサンゴだったり今ではなかなか見られない大型の貝だったりと、海の豊かさを享受していた当時の暮らしや文化を窺い知ることもできました。
「お弁当持参で出かけること自体が、遠足気分で楽しかったようです。清掃活動では、完全にはキレイにしきれませんでしたが、かなりの量のごみを回収でき、そのビフォーアフターに達成感を感じてもらえた様子です。普段はさまざまな仕事をされている方々が参加されて、みなで楽しく一致団結して取り組めました」と、参加者の様子にイベントの手応えを感じていらっしゃいました。
漂流ごみと海底ごみ。西表島のごみの現状をたくさんの人に知ってもらいたい
このプロジェクトでは、海岸清掃だけではなく、海中や海底のごみもプロのダイバーを募って回収する予定で、「西表島で以前行われた海底ごみの調査では、サンゴにロープや土のう袋が絡みついていることが多くあったんです。今回、それらを取り除きたいと思っていました」と徳岡さん。
ごみが覆いかぶさったサンゴは紫外線が届かず白化したり、ごみの上に新たなサンゴを生やしたりと、長期間滞留する海底ごみが与える生態系への影響は、陸のごみよりもわかりやすいのだとか。島民でも海底を見る機会がある人は少ないので、そうした写真や動画を用いて、西表の海底の様子を伝えていく予定です。
年度末に開催する海洋ごみの現状報告イベントは、大人はもちろん、小中学生にも楽しんでもらえるように、ゲストスピーカーを招いたり、クイズ形式の催し物を企画するなど、目下、鋭意計画中だそう。
「目指しているのは、環境問題にそれほど関心がない人にも、ごみの現状を知ってもらうこと。もうひとつは、地域散策を通じて多くの人に西表島の素晴らしさを感じてもらうこと。
観光のお客さんにとっては一時的な活動体験になると思いますが、ご自身の生活に戻った時に、なにかしら海洋環境を守るアクションに繋げてもらえたらいいなと思っています」
設立2年目とまだ新しい西表財団ですが、ビーチクリーンは地元の人たちが30年近く前から取り組んでいるそうで、そんな素地があるからこそ、自然な成り行きでこのプロジェクトも発案されたのかもしれません。
「昨年、ある理事の発案で、手付かずの海岸のビーチクリーンを自主的に実施してみたのですが、ものすごく費用がかかったんです。定期的にやるには資金不足でとても継続・拡張は無理だとわかりました。
例えば今回も、回収したごみをまず西表島の最寄りの港まで運び、別の港に手配したユニック車(クレーンを装備したトラック)を使って貨物船に乗せ、輸送先の石垣島の産廃業者に引き取ってもらう。とても手間とお金がかかります。まだまだ拾いきれなかったごみが残っていますし、またすぐに増えてしまうと思うのですが、助成が受けられたことで、活動に弾みがつきました」
さらに今後の課題について、「島内でのごみ処理設備の整備などにも働きかけていきたいと思っています。島内でごみ処理ができたらコストを下げられるでしょうし、そこは行政と相談しながら解決の道を探っていきたいです」と展望を明かしてくれました。
海は暮らしの一部。あって当たり前の海に感謝と敬意を
徳岡さん自身は20年ほど前に西表島へ移住されたそうですが、海について伺ってみたところ、「島では、海はそこにあって当たり前の存在なんです。暮らしの一部であり、いろいろな恵みを与えてくれる一方で、怖い存在でもあり、島の人は子どもに近寄らせない場所があったりします。海は、敬意をもって対峙する存在です」と、海と共に生きる島の人らしい回答が寄せられました。
小さいエリアのなかに山もマングローブもあって、全てが海につながっている。島の人たちは、海を大切にすることが山を大切にすることだと知っているのだと言います。
「西表島は自然が豊かで、自然と共存しながら暮らしてきた歴史と文化があります。外から訪れる方たちにもそうした魅力を知ってもらって、一緒に西表島の自然や歴史的価値を守ってもらえたらいいなと思っています」
第2弾として観光客を対象にした海岸清掃ツアーが開催されるのは、10月以降の予定です。
どんな成果があがるのか、どんな体験ができるのか、まだ企画準備中とのことですが、今から楽しみです。開催告知にもぜひ注目ください。