秋田の高校生たちが脱プラ農業に挑戦。研究成果を多くの農家さんにお伝えしたい!<推進パートナーインタビュー>
推進パートナーの秋田県立大曲農業高校とのコラボで、“脱プラ農業”を目指した実験に取り組みました。
2023.03.16
挑んだのは秋田県の推進パートナーで、創立130周年という節目を迎えた秋田県立大曲農業高校2年生の野菜専攻班です。
プラスチックごみ削減のため、農業用のプラスチック資材の代わりになる環境負荷の少ない資材の活用効果を検証する実験で、脱プラ農業に取り組む農家を増やそうと、使命感を持って取り組んでくれました。
そして、労力削減と収穫量アップにつながるという代替資材についての研究成果をまとめ、2022年10月に県の種苗交換会で発表し注目を集めました。
これから秋田で広がる“脱プラ農業”の進展に期待が高まります!
今回は、この研究に取り組んだチームを代表して、原 累くん、大友優聖くん、顧問の入江先生にお話を伺いました。
脱プラ資材の可能性をナスの栽培実験で検証!成果発表も大成功
取り組みに参加したのは、農業科学科2年生の2クラスから編成された課題研究野菜班の10名。
実験テーマに選んだのは、育苗ポット、農業用マルチ(畝を覆うシート)、包装ビニールの3点で、それぞれ、プラスチックに代わる資材での代用効果を検証しました。
例えば農業マルチについては、ポリエチレンマルチと生分解性マルチ、紙製マルチ、それぞれでナスの栽培データを記録。途中、紙マルチが破れたり、地温計が壊れるなどのアクシデントに見舞われながらも、根気強く観察を続けていきました。
10月に開催された種苗交換会で発表したのは、そんな半年間にわたった研究の成果です。
その気になる発表内容とは……?
原くん、大友くんの説明によると、まず、資材の異なる育苗ポット「ポリポット」「ジフィーポット」「紙ポット」で生育過程を比較すると、生育が一番早かったのはポリポットながら、定植後の生育状態や収穫量に差は出なかったこと。その分、ポットを外す労力が省ける点やごみの削減につながる点を考慮すれば、ジフィーポットの利用にメリットがあること。
また農業用マルチも同様に「ポリエチレンマルチ」「生分解性マルチ」「紙マルチ」を比較観察。地温は最低・最高ともポリエチレンマルチが高かったものの、収穫量では生分解性マルチがトップ。ナスの生育に必要な適温を保てていたことがわかる結果が出たこと。…などを、来場された農業関係者の皆さんにお伝えしたそうです。
「発表会は慣れてないからとても緊張しました」と原くん。大友くんは「脱プラ農業についてあまり知らない状況からのスタートだったので、成果が出せてよかったです」とホッとした様子。
この発表はたいへん好評で、地元の農家さんから「来年やってみたいと思う」「未来のために取り入れることを検討したい」との声も寄せられたそう。
これを励みに今後の研究にも力を入れて、もっと代替資材の効果を農家さんに伝えていこうと気持ちを新たにしたようです。
どんな進路に進んでも役立つ環境問題は誰もが身につけてほしい知識分野
以前から大曲農業高校は、地域でのごみ拾いに参加されるなどCFB秋田事務局ともつながりがありました。昨年は創立130周年の節目を迎えたタイミングとも重なり、記念事業の一環として一緒に取り組んでみないかとお声がけしたところ、コラボ企画に快諾いただきました。
「学校としても、脱プラ農業に関心はあっても、学校の予算では実現に時間がかかりハードルが高い。そこをCFB秋田とのコラボによってサポートいただけて、いつも以上に科学的な栽培実験を行うことができたと思います」と入江先生。
コラボ施策のなかでは、まず「海洋ゴミのほとんどが陸から排出されたゴミであること」、「農業で使うプラスチックもマイクロプラスチックになってしまう可能性が高いこと」などを秋田県立大学境英一准教授の特別授業で学びました。そして、プラごみゼロを目標に、脱プラに取り組む農家さんを増やしたい!という思いのもとチームで研究を進めてきました。
それまで脱プラについてあまり知識がなかった生徒たちも、この研究を通して興味を持ち、探究心も湧いたのだとか。
「創立130周年の歴史がある農業高校ですが、農業の道に進む生徒ばかりではありません。そんななかで子どもたちに何を身に付けさせてあげられるかと考えたとき、環境問題はとても重要で、どんな分野に進んでも役立つと思いました。だからお話をいただいて飛びつきました。
学校だけではできなかったたくさんのサポートをしていただきましたし、生徒たちは発表会や学校外の人たちと交流するなかで、ぐっと成長できました。とても良い機会をいただきました」と振り返る入江先生も感慨深げな様子。
今、農業でもプラスチックごみ問題が取り上げられていますが、農家にとっては初期投資負担や収穫量の変化など懸念も多い。その解決の糸口として高校から有益な情報を提供できたことは、プラごみ削減の動きにつながる大きな一歩になりました。
目下の研究対象はヘラクレスオオカブト!?
10月の種苗交換会で一区切りついた野菜班の皆さんは、現在なにをしているかと尋ねてみると、「ヘラクレスオオカブトでほうれん草を栽培しています」とのこと。
…いったいなんのこと?ともう少し詳しく聞いてみました。
農業用の化成肥料にはプラスチック製の被膜が使われている場合もあり、それがマイクロプラスチックになって問題視されていると言います。これを使わない有機栽培だと、こんどは力不足になってしまう。強めの代替肥料が必要なので、いくつか候補があったなかから的をしぼって実験を始めたのが、「ヘラクレスオオカブトの糞を肥料に使ったほうれん草栽培」なのだとか。なるほど!農業って面白いですね。
すでに次の研究が始まっているようですが、来年度はもう1校と、農家も一緒になって取り組みを進化させていこうと計画中。
大曲農業高校から始まった脱プラ農業への挑戦は、少しずつ取り組みの輪が広がっています。
シャイだけど、内には海ごみや脱プラへの熱い思いが溢れる高校生たち
最後は二人に、海について思うこともお聞きしてみました。
原くんは「プラごみが生態系に影響を与えているので、ごみのない海にしたいと思う。プラごみの削減が少しでも進むことを願っています」、大友くんも「普段使っているものだけど海などに被害や悪影響を与えるのはダメだと思うので、脱プラを意識した生活をしていきたいと思う」と、思いを語ってくれて、海ごみや脱プラに対する思いは大きく育っているようでした。
入江先生によると、野菜専攻班のメンバーはふだんとても大人しく、データをとるなどの地道な研究は得意ですが、人前での発表や取材の受け答えなどは大の不得意分野。それでも頑張れたのは、脱プラへ対する使命感をもっていたからこそ。
この日も取材中は緊張でガチガチだった二人ですが、取材の終了を告げたとたん、やわらかい雰囲気に変わったのが印象的でした。責任を果たした解放感があったのかもしれませんね。
今後も「おとなしいが中身は熱い」という秋田の高校生たちが、脱プラ農業を広めてくれることを期待しながら、何ができるかを一緒に考えて取り組んでいきたいと思います。