ヨコハマ海洋市民大学2023年度講座 第9回「関西人の僕が真鶴のファンになり港町の職員になってしまった話」を開催しました!
ヨコハマ海洋市民大学実行委員会は、横浜の海が抱える社会課題の解決に挑戦する市民を養成する講座ヨコハマ海洋市民大学2023年度第9回講座「関西人の僕が真鶴のファンになり港町の職員になってしまった話」を開催しました。
2024.03.01
ヨコハマ海洋市民大学実行委員会は、令和6年2月8日(木)に横浜の海が抱える社会課題の解決に挑戦する市民を養成する講座ヨコハマ海洋市民大学2023年度第9回講座「関西人の僕が真鶴のファンになり港町の職員になってしまった話」を開催いたしました。
このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
概要
「横浜の海が抱える社会課題を自ら考え、解決できる市民(海族・うみぞく)」を育成するヨコハマ海洋市民大学2023年度講座(年10回開催)の第9回目「関西人の僕が真鶴のファンになり港町の職員になってしまった話」を開催。
開催日時
2024年2月8日(木)
開催場所
象の鼻テラス(神奈川県横浜市中区海岸通1‐1)
参加人数
45名(受講生35名、ゲスト3名、講師・実行委員7名)
共催
日本財団 海と日本プロジェクト
後援
横浜市、海洋都市横浜うみ協議会
今回の講座は「トベと書いて卜部(うらべ)と読むということと大阪出身だということを覚えて貰えばいいです」と謙遜する、真鶴町の福祉課長兼子育て支援係長としてご多忙な毎日を送る卜部直也さんにご登壇いただきました。「海の専門家(マニア)でもないのに講師依頼をもらい、やれるのかな?と自分の真鶴暮らしを振り返ってみると仕事に生活に『たっぷり海と暮らしてるやん』と思ったので今回、ここでお話させていただくことにしました」、そんな言葉で講座は始まりました。
まずは真鶴を知って欲しい
「真鶴に来たことがある方は?」という講師からの問いかけに受講生の多くが手を上げました。真鶴町は、東に小田原、北に箱根、西に湯河原と周りを有名な観光地に囲まれた地域です。人口は7千人を切る、広島県の尾道にも少し似た起伏に富んだまち。大きさ(7.05km2)は箱根の芦ノ湖と同じくらいだそうです。代表的な産業は漁業(定置網)、農業(みかんや最近はオリーブも)、石材業(本小松石)、観光業(宿泊)。70年ほど前に旧真鶴町と岩村が合併しましたが港、漁協はそのまま小さな町に二つ存在しています(海が豊かな証拠ですね)。
左:真鶴町の全景(講師資料より)
右:鶴の魅力(講師資料より)
90年代後半、アーバンルネッサンスという政府の掛け声で日本を再開発する動きが全国で進みます。そんな中、独自のまちづくり条例を制定し県や国に挑み、身の丈に合ったまちづくりを進めることが「小さな町の大きな挑戦」と題して新聞で紹介されたそうです。東京のようなモダンなデザイン建築がなくても、京都のような伝統的建築物がなくても、地域それぞれに固有の美がある。「生活風景が美しい」と時代に先駆けて謳ったその独自のデザインコード「美の基準」に基づいて建築されたのが「コミュニティ真鶴」です。卜部さんの手元にある「美の基準」はボロボロに使い込まれています。
左:コミュニティ真鶴(講師資料より)
右:使い込まれた「美の基準」(講師資料より)
筆者はこのまちが定めた30年も前の条例にコミュニティ形成が盛り込まれていることに驚きました。今でもコミュニティ形成が再開発の重要な課題になっていることをあちこちで目にします。この真鶴町のまちづくりが評価されて2010年「世界デザインサミット」にも招待されたそうです。この「美の基準」は現在は町役場にも在庫がなく予約販売となっているようです。https://www.town.manazuru.kanagawa.jp/soshiki/machizukuri/toshikeikaku/973.html
卜部さんの真鶴大好き話はどんどん進みます。港を歩くと漁師さんが網を繕う風景を見ることができたり、住宅街では住民が思い思いに住宅の門扉や塀、路地(真鶴では背戸道というそうです)を飾っていたり、商店街には昭和の床屋など懐かしい建物が残っていたり、初夏の夕刻自宅で寛いでいると子どもたちが練習する祭り太鼓の音が聞こえてきたり、突然ドカンとたくさんの鮑や伊勢海老の差し入れをご近所さんから頂いたりと、お話に終わりがありません。美味しそうな地元の鮑、伊勢海老、ハバノリ、ナマコの酢漬け、多種多様な干物、塩うずわ。塩うずわをご存じですか?ソウダガツオの塩漬けです。これを焼き、細かく裂いてお茶漬けにするようですよ。これはアンチョビ風にも使えるようです。
さらにこの数年は「なぶら市」という朝市が、大空広がる真鶴港岸壁で町民の手で毎月最終日曜日に開催されて楽しみだとか。観光のためではなく住民のための朝市で、特徴は朝市なのに早朝からではなく午前10時〜13時までの開催という真鶴らしいゆるさで開催していること、日常的に魚に触れ合える町民が実は求めていた地元野菜に出会えること、町民がチャレンジショップ的に出店していたり、月イチで地元育ちの町民同士や移住者が「元気!?」と触れ合える機会になっていたりするそうです。地元の方以外に観光の方も増えて「3時間で出品したものが完売する」と出店者にも好評で、税金は使われず出店料だけで運営されているとのことでした。
卜部さんは休日は磯へ行き、子どもたちと生き物の採集観察をし、また海に帰すという遊びに没頭することもあるとのこと。この豊かな海は真鶴の特徴のひとつでもある「魚付き保安林」のおかげだと言われています。江戸時代に植林されたクロマツ(江戸の大火で必要となった材木として幕府が植林を行ったそうです)の林が伐採されず手付かずのまま原生林のように生い茂り、豊かな森が栄養を海に提供し海の生き物を育んでいます。この「魚付き保安林」を「お林(はやし)」と呼んで大切なシビックプライドになっているのを感じました。
そして真鶴と岩のお祭りです。特に船祭りと有名な「貴船まつり」は、江戸城築城にも使われ墓石としてもブランドである銘石「本小松石」が「海運」がないと成立しなかったことから、石材業、そう石屋さんが漁師の皆さんと一緒に海に感謝するお祭りとして盛り上げてきたのだそうです。そして今でもお神輿を担ぐために若い世代も祭りに合わせて里帰りをするのだとか。そして若い世代がその祭りの幹部を担当する年齢(厄年の頃)になりさらにまちの歴史や文化について深堀りができ、さらにまちを好きになっていくようです。
魔法の言葉、魔法のサイクルを乗り越える
そんな卜部さんの本業は行政マンです。そして住民との協働をする上で行政マンや住民の思考を停止をさせる魔法の言葉があるのだそうです。それが…「予算がない」という言葉です。
そしてもうひとつ、卜部さんが魔法のサイクルと呼んでいる「住民が要望する→行政が検討する」という、次の一歩がいつまでも進まないサイクルです。
行政マンとしてこの二つをどう解決するかを考えた結果、税金に頼らない資金調達でした。ESG経営や企業CSRといった企業の経営変化、社会の流れとの連携でした。事例のひとつとして大手通信会社などと連携してお林の調査プロジェクトに取り組むことができ、この調査により今後の保全の方向性が明確になったことを挙げられていました。さらに調査員は町民公募のボランティアで行ったそうで、今でもその取り組みは続いているようです。同じように、「真鶴で遊べる公園がない」という魔法のサイクルが続いていた状況に対して、「要望する人が実行する、行政は実行する人や団体を応援するスキルを磨く」という形で、住民提案で実行し役場が応援する既存公園の作り直し、公民協働で魅力化する事業を試行錯誤しています。
継続しているプロジェクトの様子(講師資料より)
港町の風景から生まれる豊かさ・町民との協働
卜部さんはまちの魅力を再発見するひとつとしてアートフェスティバルを町民と立ち上げから応援しています。町内の空き店舗や空き家に3週間作品展示をし、さらに様々なワークショップを開催することで町民が現代アートに触れ遊べる機会を提供し町内飲食店などを利用してもらう芸術祭です。筆者、ヨコハマ海洋市民大学実行委員会実行委員長の金木もロックバランシングワークショップと展示パフォーマンスを行いました(好評だったと思いたいところですが怖くて聞けません…)。
さらに役場の空き家プロジェクト「くらしかる真鶴」(仮住まいを提供し移住体験により移住を呼び込む)や港町が出会うことのなかったエンジニアやデザイナーと繋がる入口となったIT系のハッカソンの誘致・開催、東京という制作場所に行き詰まっているプロのミュージシャンや映像クリエイターを呼び込みクリエイターズキャンプなど、ソフトで町を元気にする環境を充実させ、後にクリエイターを受け入れられる創作拠点施設(真鶴テックラボ)などをまちの方との協働事業で実現しています。
他にもレンタルオフィス、サテライトオフィスの誘致を空き家の大家さんと伴走しながら実現し、町民の新たなスタートアップにも繋がっているそうです。
筆者が感じたのは、さまざまなアイデアを町民と実現する、ノンジャンルで町民事業や公共事業を応援する際も、東京とは異なる風景から生まれる豊かさ、そう、「美の基準」に照らし合わせ、それを基本に考えるという手法が確立されているということの素晴らしさでした。
最後に印象的だったのが移住者のピザ屋さんがオープンし、まちの干物や塩辛をメニューに活用してくれたこと(とても繁盛しているようです)、同じく移住者のハンバーガー屋さんがとても繁盛している時に「地元の人は魚は普段から食べているので、案外肉が大好きなんですよね。漁師町あるあるです。」と言う言葉でした。外から見ると魚食を活かして!と考えてしまいがちですが、移住者と地元の方が触れ合って初めて知る一面もあるようです。
他にも楽しい港町暮らしのお話がたくさんあり、あっという間の1時間半でした。
参加者の声
・真鶴は面白いことをやっていると昔から思っていたが、直接聞けてよかった。
・何をやるにも必ず「美の基準」に立ち戻ってアプローチしていることが素晴らしいと思った。
・興味深い話ばかりで、あっと言う間に過ぎてしまった。
イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています
参加人数:45人