海にまつわる民話の文化的価値と活用法を考える公開シンポジウム「『海ノ民話』から学ぶもの~作家・芸人・学者の視点から~」を開催
一般社団法人日本昔ばなし協会は、2024年3月25日(月)、公開シンポジウム「『海ノ民話』から学ぶもの~作家・芸人・学者の視点から~」を開催。小説家の永井紗耶子さん、お笑いコンビ「Aマッソ」の加納さん、日本昔話学会委員の久保華誉さん、日本財団の海野光行常務理事が登壇し「海ノ民話」について、その文化的価値や活用法を語り合いました。
2024.03.29
一般社団法人日本昔ばなし協会は、2024年3月25日(月)、公開シンポジウム「『海ノ民話』から学ぶもの~作家・芸人・学者の視点から~」を開催しました。小説家の永井紗耶子さん、お笑いコンビ「Aマッソ」の加納さん、日本昔話学会委員の久保華誉さん、日本財団の海野光行常務理事が登壇し、日本中に残された海にまつわる昔話や伝説などの「海ノ民話」について、その文化的価値や活用法を語り合いました。
このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
イベント概要
名称 |
公開シンポジウム「海ノ民話」から学ぶもの ~作家・芸人・学者の視点から~ |
主催・共催 |
主催 一般社団法人日本昔ばなし協会 |
日時 |
2024年3月25日(月)18:30~20:00 |
会場 |
文藝春秋ホール(東京都千代田区紀尾井3-23 文藝春秋西館B1F) |
登壇者 |
小説家 永井紗耶⼦さん |
参加者 |
74名(事前公募した一般の方々) |
「海ノ民話のまちプロジェクト」とは
シンポジウムではまず、登壇者が海にまつわる思い出を語り合った後、日本財団 海野光行常務理事から「海ノ民話のまちプロジェクト」について説明、笹川陽平会長もビデオメッセージで会場に語りかけました。日本財団は2016年より、「次世代に美しく豊かな海を引き継ぐ」をコンセプトに子どもや若者世代を中心に、年間3000箇所以上で海を体験するプログラムを提供する「海と日本プロジェクト」を推進しており、「海ノ民話のまちプロジェクト」もその一環です。
日本財団 海野光行常務理事
日本財団 海野常務理事による「海ノ民話のまちプロジェクト」説明
全国各地には、2000以上の民話があると言われています。その中でも、海にまつわる民話は、全体の約2割程度あるそうです。多くの民話には、「感謝」や「教訓」など、先人たちが込めた「想い」が詰まっています。昨今、市町村合併等で資料が散逸し、語り部の高齢化など、民話が消失の危機にあることを知りました。そこで、海にまつわる民話を「アニメという形で記録保存」し、「海と人とのつながり」や「地域の誇り」を継承していく必要があると考え、このプロジェクトをスタートさせました。
日本財団 笹川陽平会長 ビデオメッセージ
「日本は歴史の古い国で、生活の道具や民話などが残され、民俗学も充実しています。次世代を担う子どもたちのために、日本各地の海にまつわる民話を採取し、子どもたちが見やすいアニメーションにして残したいと思っています。今日は登壇者の皆さんに議論を深めていただき、その内容をふまえて今後、日本財団がやるべきことを検討し、積極的に支援をしていきます。」
海にまつわる民話の文化的価値と活用法について、登壇者が活発に議論
登壇者は「海ノ民話がもつ価値」や、「海ノ民話をどのような表現媒体で伝えていくか」「携わる人を増やすにはどうしたらいいか」といったテーマに対し、各自の専門分野をいかした意見やアイデアを語りました。時には会場が笑いにつつまれるなど、終始和やかな雰囲気の中、活発に議論が交わされました。
■小説家 永井紗耶⼦さん
「海ノ民話アニメーションを観て、その土地の特徴的な地形、自然現象を知るとともに、“そこに神様がいる”と感じる日本人の心や、海から流れ着くものに豊かさを覚えていた先人たちのことを思いました。民話は、その土地の人たちにとって“誇り”となっていることがベース。語り継がれる中で、節をつけて義太夫になったり、説教の部分が抜け落ちて恋愛ストーリーになったり。演出や、口調の面白さ、言いやすさも必要なのかなと感じます。」と小説家視点で話しました。
また、災害をテーマにした民話に関して「災害は、無慈悲で不条理。残された人にとって、亡くなった方への鎮魂の思いが民話の中にある。あるいは、亡くなってしまった人が海のかなたにいると信じるためにある。民話は、心穏やかに過ごしていくための助けになるのでは。」と話し、「(海ノ民話の活用について)海ノ民話には、物語の基本となるものが入っています。主人公、設定、シチュエーションなど。ひとつの民話をテーマに、動画、ダンス、演劇、キャラクターを深掘りするなど、自由に表現してみると良いのではないでしょうか。“民話で勉強しましょう”だと、子どもたちはのってきません。『この民話で遊ぼうよ!』と誘えば、教訓を読みこんで、クリエイトする。そうすれば広まり、さらに、民話を自分でも作ってみたいという人も出るのでは。私も今後、民話を自分の創作活動に生かしていきたいと思います。」と今後の展望について述べました。
■お笑いコンビ「Aマッソ」 加納さん
「海ノ民話アニメーションには、領土の問題など、現代社会にも通じる内容があった。自らの主張を譲れない時、人は天啓によって判断したくなる。そんな人間らしさも描かれていた。アニメーションとして面白いから見進めていったところ、話の核になる部分がオチ(最後)にきている。海ノ民話アニメーションのひとつの大きな特徴ではないか。」と芸人視点での感想を述べました。
また、「災害は無慈悲に訪れるもの。人間がおごり高ぶっていたから神が怒った、ということだけではない。全てに分かりやすいオチをつけない、グレーな話もあっていいと思う。オチのバリエーションを現代風にしたり、裾野の広い民話のあり方が将来的に良いのでは。(海ノ民話の活用について)ゲームは可能性があるのでは。助けたり、国を救ったり、民話性を入れていけるかもしれない。お笑いのコントは、フィクションの世界。何かを伝えたいとき、ライブにまさるものはない。真のメッセージを伝えるには、動画よりも、紙芝居や口伝の方が効果があるのではないか。」と話しました。
■⽇本昔話学会委員 久保華誉さん
「民話とは、英語のFolktaleから民間説話という言葉が生まれ、それを略したもの。内容や形式によって『昔話』『伝説』『世間話』があります。地域の歴史や価値観と共に教訓や生きる知恵が含まれています。民話に含まれる『世間話』は、今、皆さんが友達の友達に聞いたなど、最近の話で語られているものです。また、作家が昔話風に創作したものが民話という言葉で表現されたりもします。伝統的な話の形を使いながら、新しい話はどんどん生まれています。」と学者視点での意見を語りました。
また、「普遍性についてですが、とんち話ではない一般的な昔話は、日本では基本的に「勧善懲悪」です。良いことをすれば自分に良いことが返ってくる。そういう世界観は、子どもに安心感を与えてくれると思います。教育的側面から道徳教材に昔話が使われ、例えばグリム童話は明治期から日本で積極的に紹介されました。そこで面白いのは、グリムの原話が日本の昔話らしい形に変化し、広がっていることです。民話は、時代性、文化性などに合わせ、変化していくのです。」と歴史にも触れながら話し、「海ノ民話アニメーションは、原画や声優の語りなど、芸術として優れています。監督がその土地に行って取材して作られている点にも感激しました。言葉の違う外国の方にもアニメーションを通じ、伝えられるものがあります。『自分の国にも同じ話がある、似ている話がある』と交流もできるでしょう。海ノ民話のまちプロジェクトの理念とともに、発信していただけたら素晴らしいと思います。」と今後の展望への期待も述べました。
■公益財団法人日本財団 海洋事業部 海野光行常務理事
「(海ノ民話の活用について)対象を大人にして、海ノ民話ライブを夜の水族館で開催してはいかがでしょうか。加納さんに“海コント”も披露いただきたいですね(笑)今までと違う層に広げたいと思います。もう一つは、AIを活用した創作です。(会場スクリーンで、AIで試作した海ノ民話アニメーションを上映して)永井さんから『話のベースはいけてる』と評価をいただけましたが、久保さんからは『語り口調に難がある』、加納さんには『ツッコミどころがなくかわいげがない。魅力に欠ける』とご指摘いただきました。今は沼田アニメ監督に軍配があがりますね。AIは発展途上ですので、将来的に何らか活用したいと考えています。お話を伺いながら、海ノ民話のテーマソングがないことにも気がつきました。いろんな可能性があります。できることから試していきます。」と今後の民話制作について話しました。
「海ノ民話のまちプロジェクトでは、民話が完成した地域でワークショップを行います。長野県塩尻市では、高校生に民話の活用について議論いただき、ユニークなアイディアがたくさん出ました。私たちは若者を教育・啓発する対象として見がちですが、そうではなく、若者を協働パートナー、社会を変える同志として一緒に取り組むことが重要だと考えています。ユネスコには世界的に貴重な記録に対する認識を高めることを目的に、「世界遺産」や「無形文化遺産」とは別に「世界の記憶」というプログラムがあるそうです。「海ノ民話」を「世界の記憶」に提案するといったことも検討してもよいかと思いました。それによって「海ノ民話アニメーション」を「ジャパンアニメ」という世界的に認められるカルチャーとして打ち出すとともに、同じような民話を持つ世界の他地域との交流も促進できるかもしれません。」と社会を巻き込んだ取り組みや世界的な活動も視野に入れて話しました。
シンポジウムのまとめ(海ノ民話のまちプロジェクトの今後の展開)
海野常務理事は「本日は改めて、海ノ民話の価値を考える機会になりました。これまでに完成した海ノ民話アニメーションは67作品。今後、100作品が完成した暁には、ひとつのパッケージとしてテレビの地上波で流すなど、もっと皆さんの目にふれるようにしたい。期待して待っていてください。
また現在、『海ノ民話の世界』というタイトルの書籍をまとめており、今年5~6月頃に文藝春秋から出版の予定です。たくさんの有識者の方々に民話について語っていただき、海ノ民話の価値を体系化するという試みです。今後さらに学識者の方々と調査研究をしながら、どう地域で活用するかということ、どのように発信すべきかを深掘りして、生かしていきます。」と語りました。
参加者からの声
・民話を通すことで、子供たちにとってはその時間の楽しさだけでなく、心の奥から物事の大切さや、自然や生物を愛する気持ちが育まれるのだろうと感じました。(20代・一般)
・海の捉え方が変わりました。日本を俯瞰し、海に囲まれた国という見方をこれまでしていなかったのですが、(このシンポジウムを通じて)海をより身近に感じることができました。(20代・学生)
・民話には幼少期によく触れていたものの、大人になってからその機会が減っていたことに気がつきました。以前は、民話からの“学び”という点に着目していましたが、今後は伝承することを考えていく必要があると実感しました。(20代・一般)
・100話といわず、200、300と作ってください!(40代・一般)
・日本文化の底流にあるすばらしい宝を見ました。地方の民話の発掘に力を入れてほしい。それらを集約して、日本人の民族性を追求する企画があればなお良い。(80代・一般)
イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています
参加人数:74人