【急減した浜名湖アマモを再生するための学術的アプローチ】浜名漁協SDGs部会、大学教授、県や市など自治体も参加!「有識者委員会」(第1回~第7回)を開催しました
一般社団法人静岡UPは、浜名湖で海草アマモが急減していることで、海の環境や生態系に影響を与えていることについて学術的に現状を把握、アマモを再生していくための科学的なアプローチを検討していく組織「有識者委員会」を立ち上げ、第1回~第7回を開催しました。
2024.03.30
一般社団法人静岡UPは、浜名湖で”海のゆりかご”と呼ばれる海草アマモが急減していることで、海の環境や生態系に影響を与えていることについて、学術的に現状を把握し、アマモを再生していくための科学的なアプローチを検討していくための組織として、「有識者委員会」を立ち上げ、第1回~第7回を開催しました。
このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
開催概要
「有識者委員会」(第1回~第7回)
(第1回)
日程:2023年10月29日(日)15:00~17:30
開催場所:浜名湖体験学習施設ウォット(静岡県浜松市中央区舞阪町弁天島 )
参加人数:16名
(第2回)
日程:2023年12月7日(木)10:00~12:30
開催場所:浜名湖体験学習施設ウォット(静岡県浜松市中央区舞阪町弁天島 )
参加人数:10名
(第3回)
日程:2024年1月25日(木)14:00~16:30
開催場所:浜名湖体験学習施設ウォット(静岡県浜松市中央区舞阪町弁天島 )
参加人数:14名
(第4回)
日程:2024年3月3日(日)12:30~16:00
開催場所:浜名湖体験学習施設ウォット(静岡県浜松市中央区舞阪町弁天島 )
参加人数:8名
(第5回)海洋調査:分布調査・水中ドローン(1号機・潜航式)撮影
日程:2024年3月22日(金)12:30~15:30
開催場所:浜名湖内各所(弁天島海浜公園桟橋より出港)
参加人数:12名
(第6回)海洋調査:分布調査・水中ドローン(2号機・曳航式)撮影
日程:2024年3月27日(水)12:30~16:00
開催場所:浜名湖内各所(弁天島海浜公園桟橋より出港)
参加人数:14名
(第7回)海洋調査:アマモDNA研究用サンプリング調査
日程:2024年3月31日(日)9:30~12:30
開催場所:浜名湖内各所(弁天島海浜公園桟橋より出港)
参加人数:6名
浜名湖という海に対する学術的・科学的アプローチで、アマモ再生に向け効果的なアクションを!
浜名湖ではいま、異変が起きています。今から9年前頃(2015年頃)から、「海のゆりかご」とも呼ばれ生き物たちの住処となっている海草「アマモ」が急速に減少し始めました。アマモの減少は、浜名湖全体の水産生態系に影響を与え、浜名湖特産品だったアサリの不漁をはじめ、エビやカニを含む魚介類の漁獲量も減少を続けています。アサリ漁獲量は過去最低を記録し、漁業者の経営に打撃を与えただけでなく、浜名湖観光の名物であった潮干狩りは、5年連続で中止しています。様々な団体が立ち上がって環境保護に取り組んでいますが、アマモ海草群落の減少が止まりません。
このアマモ減少を食い止めるために、周辺で暮らす人たちが力を合わせてできることに挑戦しようと立ち上がったのが、浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトです。浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトでは、海のゆりかご・海草アマモを守り、浜名湖を守っていくための子どもたちの海洋教室である「浜名湖アマモ探検隊」や、アマモ育成教室などの活動を行っています。
これらの活動は、浜名湖に意識をもってもらうための体験で、まずは「キッカケ」です。これらの活動をより効果的にしていくためにどうしたら良いか?を検討する組織として、有識者委員会を立ち上げました。2018年からアマモを守るための活動を行っている、浜名漁協SDGsアマモ再生事業部の徳増隆二会長が、この有識者委員会の委員長に、また、静岡大学農学部でアマモの再生について科学的なアプローチを試みている笹浪知宏教授が副委員長に、それぞれ就任いたしました。さらに、浜名湖に起きている課題を、長年地元報道機関として追い続けている中日新聞報道部や、静岡県、浜松市、湖西市などの自治体も参加。加えて、浜名湖の環境保全のために活動をしているNPO団体なども加わって、委員会を運営しています。
有識者員会では、経験豊富な委員たちが知見を持ち寄り、現状を整理することで、今後の活動に無駄がないように進めていくことを基本とし、将来的に、親子に参加してもらって、アマモの苗を植えるなら、どの時期に、どの場所に植えたらいいのか?など、委員会で考えて結論を探し求めています。
具体的にどういったアクションをすれば効果的か?を検証していき、最終的なゴールとして「この時期、この場所でやるのがいいんだよね」という結論を導き出して、打ち出せることができたらいいなと考えて行動しております。地元製造メーカーに勤務する技術者が独自に水中ドローン装置を開発して、新たなアマモ測量技術に挑戦したり、広範囲にデジタルでアマモ資源量を把握するための実証実験も行ったりしています。
いい種を取る。種を発芽させ、元気なアマモ苗を作る。苗を実験区に植える。定点観測する。
第1回委員会では、アマモ場が急激に少なくなったことについて、漁協や、NPO団体でも活動を活発化させている中、再生には至っていないことについて現状を報告し合いました。また海底をデジタルマップ化して、アマモ場の現状や再生をデジタルデータとして把握していくことの重要性について討議しました。
第2回委員会では、全国の海でもアマモ減少問題が起きていて、他県では20~30年前から取り組んでいることなど、他地区の先行事例について検討しました。第3回は、浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトの活動を知った地元企業が複数、委員会にゲスト参加し、今後地元企業として協力していきたい旨、提案がありました。また、地元の製造メーカーに勤務しながら、水中ドローン開発に取り組んでいる機械工学者の園部宏和さんが委員として加わり、アマモの分布を広範囲に測量して、データ化していくことについての技術的な提案がありました。第1回~第3回までに出た委員からの提言をまとめ、第4回委員会では、実際の浜名湖洋上に船で出て、現状の観察、水中ドローンを用いた観測実験、さらに種を取って強い苗を作っていくためのアマモサンプリング調査への方針について討議しました。また、有識者委員会の活動拠点となっている浜名湖体験施設ウォットの中庭に、アマモの種を発芽させ、元気な苗を作って育てるための大水槽装置を2台設置することについて、方針と課題を整理しました。
第4回の委員会で出た課題を受けて、第5回委員会・海洋調査では、浜名湖内4ヶ所を観察し、うち1ヶ所ではアマモの繁茂を確認しました。また水中ドローン1号機(潜航式)の潜航・撮影テストを実施しました。第6回委員会・海洋調査では、第5回で調査したポイントを含む、全6ヶ所に調査ポイントを拡大。うち3ヶ所でアマモの再生が始まっていることについて確認をしました。また水中ドローン2号機(曳航式)の曳航・撮影テストを実施しました。
第7回委員会・アマモサンプリング調査では、第5~6回の調査に基づき、潜水ダイバー2人とスノーケリング1人による潜水を実施し、計5ヶ所でアマモ採取サンプリング調査を実施しました。これは、強い苗を作っていくためには、浜名湖内の異なる場所で成育するアマモのDNAを交雑させて苗作りをすることが、今後の浜名湖アマモの再生に必須であるとする、今年度の有識者委員会のまとめ意見に基づくもので、採取したアマモは静岡大学農学部においてDNA検査が行われます。同日は同時に水中撮影も行い、場所によって生え方が違うこと、他の海底植物との同居状況など、場所の違いとアマモ再生の因果関係について把握する調査も実施しました。
アマモ再生に関する、有識者委員からのその他の意見
●アマモという海草は光合成をする。ブルーカーボンとしても重要。陸上の森林でJクレジットの認証が進んでいる中、森林によるCO2固定よりも、海草の方がCO2の固定量が多い。
●アマモ場は、浜名湖で急減したアサリの住み家になることに着目すると、アマモ場がある影響で海流が弱まり、アサリの足場になるという部分や、環境水質浄化という面でも重要である。
●3年前、コアマモが増えて、海水浴客の体にはり付いて嫌われた。浜へ打ち上げられたものを、何十万円も経費を使って産業廃棄物として処理した。アマモを肥料に使っていた歴史もあり、アマモを肥料に活用する手法もある。獲ったものを植える方に使えば、カーボンニュートラルにもなる。
●行政として何ができるかを考えたい。市民の方も興味をもつ取り組みを、広報していくこと。広報活動を通して、この活動を広げていく役割に貢献したい。
●今後仮にアマモが増えすぎて「流れ藻になって邪魔でしょうがない」という話であれば、アマモから糖を精製する方法がある。またアマモをアメリカミズアブに食べさせて繁殖させ、このアメリカミズアブを魚の繁殖のエサに利用するというような方法もある。カーボンニュートラルとは少し違う考え方。
●浜名湖の若手の漁師は、アサリ漁がダメになってから、漁業から離れてしまっている。浜名湖からもらった恩恵を返すつもりで、アマモの再生に取り組みたい。
●研究者としても、アマモ場が増えたら、そこでアサリが育ったというエビデンスを出していきたい。
●アマモ種苗生産を、何万という規模で大規模でやっていくことができる体制づくりをしたい。それぐらいしないと意味がない。
イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています
参加人数:80人