ヨコハマ海洋市民大学2023年度講座 第5回「海とウミウシと私〜ふと学んでみたくなった、不思議な動物ウミウシの秘密〜」を開催しました!
ヨコハマ海洋市民大学実行委員会は、「海とウミウシと私〜つい学んでみたくなった、不思議な動物ウミウシの秘密〜」を開催しました。横浜の海が抱える社会課題の解決に挑戦する市民を養成する、ヨコハマ海洋市民大学の2023年度第5回講座です。
2023.11.09
ヨコハマ海洋市民大学実行委員会は、令和5年10月5日(木)に横浜の海が抱える社会課題の解決に挑戦する市民を養成するヨコハマ海洋市民大学の、2023年度第5回講座「海とウミウシと私〜つい学んでみたくなった、不思議な動物ウミウシの秘密〜」を開催いたしました。
このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環として行われました。
開催内容
「横浜の海が抱える社会課題を自ら考え、解決できる市民(海族・うみぞく)」を育成するヨコハマ海洋市民大学2023年度講座(年10回開催)の第5回目「海とウミウシと私 つい学んでみたくなった、不思議な動物ウミウシの秘密」を開催。
開催日時
2023年10月5日(木)19:30〜
開催場所
象の鼻テラス(神奈川県横浜市中区)
参加人数
72名(受講生64名(一般52名、大学生7名、高校生2名、小学生3名)、ゲスト1名、講師・実行委員7名)
共催
日本財団 海と日本プロジェクト、象の鼻テラス
後援
横浜市、海洋都市横浜うみ協議会
本講座の講師を務められた中野理枝さんは、今は理学博士としてご活躍中ですが、20代の頃は広告代理店のコピーライターをされていました。その際にダイビングに出会い、世界各地の海に出かけていくことで世界観や仕事観が変わっていったそうです。仕事でのストレスや人間関係の悩みも、ダイビングやダイビングを通して観察した海の中の生き物たちに救われたと語っておられました。
30歳を目前にフリーランスライターとして独立、さまざまな雑誌や書籍でインタビュアーや書評、旅行記事などを書いて原稿料を稼ぎ、そのお金でダイビングに出かける日々(中野さんによると「稼いだお金を全て水の泡と化す日々」を送られた由)。けれど当時を振り返っても「まさかウミウシの専門家になるとは思ってもいなかった」そうです。
中野さんがダイビングライフを通して最も強く惹きつけられたのがウミウシという動物ですが、その当時(1980年代)のウミウシはダイバーの間でも「色の派手なナメクジ」程度の認識で、まるで人気がなかったそうです。そんな中でも、ウミウシについてもっと知りたいと思った中野さんは、毎日の仕事の後でオーストラリアのウミウシ研究者が作ったホームページを1日1ページずつ翻訳して、知識を蓄えていかれました。そんなある時、ある出版社からウミウシの本の編集を依頼されました。1999年に出版されたその本は意外なほどの反響を呼びました。中野さんによればその頃が第1次ウミウシブームだったように思うとのことでした。
【会社勤めをしている時にダイビングと出会い、世界観ががらりと変わったそうです】
中野さんに転機が訪れたのは2004年。『沖縄のウミウシ』という図鑑の編集だけでなく、『本州のウミウシ』という図鑑の執筆を依頼されたのです。猛勉強の結果図鑑は無事に出版されました。しかし文系出身で海洋生物について専門的な教育を受けたことはなかった中野さんは、出版してから文責を感じ、かつ、ウミウシについてより詳しくなりたいとの思いに突き動かされ、2005年、45歳の時にウミウシの分類学を学ぶため大学院へ進学することを決意したそうです。ちなみに大学院に入ることを「入院」というそうで、「ウミウシ好きという病気が悪化した結果の入院」というイメージが受講生にも重なったようで、会場から笑い声が上がっていました。
中野さんは早稲田大学卒。専攻は現代日本文学。生物学は高校生の時に習ったきり、最新の知見などまるで知らない。これでは大学院に進学できない、と思った中野さんは入院前に2年間、放送大学で生物学の知識をブラッシュアップされました。並行して自分を受け入れてくれる研究室を探したところ、受け入れてくれそうな大学の教員から「ウミウシ図鑑を出したくらいでは大学院への進学は認められない」「院試を受ける前に英文論文の1本くらい書いておくべき」とアドバイスされ、進学前にも拘わらず指導教官の指導を受けて、英文論文を1本執筆されました。さらにはフィールドワークするには必要と、自動車の運転免許もこの時期に取得。
2007年4月、琉球大学大学院 理工学研究科 海洋自然科学科に、社会人大学院生として無事進学。「中野さんはダイビングして海中でウミウシの生態を観察できるのだから」という指導教官のアドバイスに従い、大学院では分類学ではなく行動生態学的研究をすることになり、その研究が今に続く自分の研究分野となったそうです。
ところで、ウミウシは巻貝の仲間だそうです。ご存知でしたか? 巻貝との共通祖先は大昔、海の中にいた小さな小さな巻貝で、海の中で貝殻をさまざまな形に進化させたのが現生の巻貝類、海の中で貝殻をなくす方向に進化したのがウミウシ類、陸に上がってから貝殻をなくす方向に進化したのがカタツムリ・ナメクジ類。そういわれてみると色はともかく形は、ウミウシとカタツムリ・ナメクジ、似ています。世界中の海にいるウミウシは実に6000種以上。中にはいまだ貝殻を背負ったままのウミウシもいて、その写真を見せていただいたことで「なるほど、たしかにウミウシはカタツムリの親戚なんだなあ」と思いました。
(左)【ウミウシとカタツムリ・ナメクジと巻貝の関係】
(右)【視力は明暗がわかる程度しかないそうです】
ウミウシは視力があまり良くないらしく、そのため嗅覚と触覚を頼りに生きているそうです。とはいえ大きさは平均して3センチ程度。しかも魚のように泳ぎ回ることはできず、海底を這ってしか移動できません。だから交尾相手と出会う少ないチャンスに確実に交尾して子孫が残せる、雌雄同体という進化を選択したのではないかとの説が有力なのだそう。ウミウシの雌雄同体は魚のように雌雄が入れ替わる(性転換する)異時的雌雄同体ではなく、常にオスでもありメスでもある同時的な雌雄同体です。この辺りは中野さんの専門分野である行動生態学の領域で、実際のウミウシの配偶行動の写真を多数見せていただきました。参加者の皆さんも興味津々で見ていました。
(左)【ウミウシが食べる餌のいろいろ】
(右)【他のウミウシを食べるウミウシも!】
ウミウシの多くはカイメンやサンゴ、イソギンチャクなど、海底の岩などに固着する動植物を食べているそうです。動き回れない動植物は魚などに食べられないように自分の体に有毒物質をたくわえますが、貝殻を捨てたウミウシは、軟らかくて食べやすそうな我が身を守るために、毒を持つ餌を食べて自分の体を有毒化することで、魚などに食べられないようにしているそうです。一部のウミウシはクラゲなど、自由に泳ぎ回れる動物を食べるそうですし、さらに他のウミウシを食べる種類もいるそうで、生き残り戦略は実に多岐にわたるとのことでした。その中でもいちばんの驚きは交尾相手と交尾しながら共食いを行うウミウシがいるという話で、交尾しつつ共食いする写真には会場からどよめきがあがるほど。講座後のアンケートにも驚きの声が多数寄せられました。
2013年に博士号を取得された後、中野さんは琉球大学で非常勤講師を行う一方、東京大学総合研究博物館に研究員として在籍。翌2014年にはNPO法人全日本ウミウシ連絡協議会を設立、理事長に就任されました。現在は公益財団法人黒潮生物研究所の研究員とNPOの理事長を兼任されています。コンスタントに研究論文を発表されるだけでなく、多数の書籍を出版され、講演活動も精力的に行われています。
【当日は中野さんの著作物や、実行委員が制作に関わっているウミウシグッズなどの販売もありました】
本稿執筆者の印象に残ったのは、講師の中野さんが実に楽しそうにウミウシについて語ること、その全身からウミウシ愛が溢れていたこと。そしてウミウシが本当に有毒なのか、確認するためにウミウシを舐めてみて「本当に不味かったんですよ! えぐくて酸っぱくて、」と語る中野さんの笑顔でした。
質疑応答の時間に移り、会場からは人工飼育ができるかどうか、なぜ派手な色なのか、一回にどれくらいの卵を産むのか、など多くの疑問質問が寄せられました。予定時間を超えて質疑応答は終了。講座終了後も中野さんの前には長蛇の列。閉館時間まで質問や著書へのサイン、記念撮影など、楽しそうな語らいが続いていました。
参加者の声
・初めて参加したが雰囲気もよく、楽しくウミウシのことを知ることができた。
・お話が楽しくてあっという間に終了時間が来てしまった。
・講師の大学院での過ごし方を聞くことができ、とても勉強になった。
イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています
参加人数:72人