社会を動かす!? 若者が目指すサステナブルを大人世代がサポート<助成事業者インタビュー>
気候変動、SDGs、そして海洋問題。若者たちの声で社会を変えていく、SWiTCHインタビュー。
2024.02.01
SDGs、パリ協定など社会課題の解決に向けた世界的な指標がありますが、こうした未来を左右する事柄を決議する場に「若者がいない」ことも課題だと感じているという一般社団法人SWiTCH。
SWiTCHは、若者たちが中心になってサステナブルな社会の実現に取り組むプラットフォームで、若者たちを大人世代がサポートする仕組みを構築しながら、さまざまな情報発信やイベント、プロジェクト運営などを手がけてきました。
団体設立のきっかけは、2020年のCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)の延期を受けて、学生ら世界の若者たちが開催した模擬COP26だったそうで、代表理事の佐座マナさんは当時、アジア地区コーディネータとして参加し、日本の取り組みの遅れを痛感したのだとか。
その後SWiTCH主催で「SHIBUYA COP」を毎年開催していて、サステナブルなアクションを起こすきっかけをつくる交流イベントとして、若者・企業・自治体などと連携しています。
ほかにも、札幌で実施している「若者との共創プロジェクト」では、若者と大人が協力して社会を変える10のアクションに挑戦するなど、若者の声を社会に生かす取り組みが注目を集めています
そんななか、同じ危機感をもち次世代へ向けた取り組みを行う日本財団 海と日本プロジェクトの存在を関係者からの紹介で知ったそうで、23年度は助成を受けて、新たにサステナブル意識調査と対話型のサステナブルワークショップを実施中です。
「我々だけではできないことが多くありましたし、海について改めて考える機会が持てたことにも感謝しています」という佐座マナさんに、取り組みの背景や海への想いなどを伺いました。
意外と知らない!?サステナブルな海のこと。若者への意識調査で課題も浮き彫りに
およそ半年をかけて実施した意識調査は、「これまでの活動のなかで、多くの人は気候変動を教科書の内容以上には理解していないのかもしれないと感じていたんです。さらに海とサステナブルな社会とのつながりも、知らないか、知っていてもどうアクションしたらいいかはわからない状態なのではないかと」という懸念が、今回の意識調査を計画したきっかけになったのだと言います。
まずは若い人たちが、どのくらいサステナブルに関する知識を持っているのか、イベントやワークショップの参加者を対象に、さらに一般公募もかけながら調査を実施。調査票は、国連環境計画が発行する教材から海に関連するパートを基に作成したもので、全31問に回答してもらうものです。
「数百の回答データから見えてきたのは、“大人でも正答するのは難しい”という現状でした」と佐座さん。仮に気候変動対策やSDGsについて個別の研修を受けていたとしても、それぞれがどうつながっているのか相関までの理解には至っていない、という課題が発見できました。
興味深い調査結果になりましたが、地球というシステムのなかでの海の役割への理解度など、分析結果の発表は2月12日、札幌市と進めてきた「若者との共創プロジェクト」の最終報告イベント内で行われるそうです。後日SWiTCH公式サイトにも掲載されるそうなので、ぜひチェックしてみてください。
講師は各分野のトップランナー。世代も立場も超えて本気の対話がヒートアップ
もうひとつの助成事業として実施されている「SWiTCH CHAT for actions」は、海の問題を専門家と一緒に考えるワークショップで年4回の開催です。課題解決につなげるために、行動にどう移すのかまでしっかり考え抜くこと、それを “CHAT”の名の通り対話をしながら探っていく場としています。
対面参加とオンライン参加のハイブリット開催で、参加人数は第3回までで558名、6割が10代〜20代の若者でした。
「講座も頭でっかちにならないようテーマ設計も工夫しました。
そもそも海の問題はレイヤーが多すぎて複雑化しています。だから、まずは問題を大きな視野で捉え、人類の問題、海の問題、そして自分ごと化できる身近な問題へと分解していく構成に。最初に身近すぎる問題から考えはじめると、アクションも小さくなってしまいがちですから。段階的に自分自身に落とし込んで、どんなアクションができるかを具体的に考えてもらいました」
講師陣の選定も、それぞれのテーマに適した専門家を探してアプローチしたそうで、たとえば、人類学・霊長類学のトップでもあるゴリラ研究の第一人者、山極壽一先生や、人類進化と環境適応から健康や衛生管理を調査研究する山内太郎先生。サンゴ礁のスペシャリスト安田仁奈先生など、各業界の第一線で活躍されている方々です。
参加者同士はもちろん、講師とも対話していくなかで、お互い新しい視点に気づいて議論が深まったりアイデアが生まれたり、ワークショップ後も会場内で先生たちを交えた会話が長く続けられていて盛り上がっていました。
「書籍では得られない、生きた情報と熱いエネルギーは対面だからこそ伝わるものがあるのだと思います。私も学生の頃にこうした場に参加したかったと、見ていて羨ましく思いました」と佐座さん。参加した若者たちは交わした言葉のなかから、業界トップランナーたちの本気を感じ取っていたのかもしれません。
また参加者のなかには、先生や教授から紹介されて参加した学生も少なくないそう。専門家と接する機会を学生に提供したい先生方が、SWiTCHに共感して推薦してくれているのだとか。知った当初は戸惑いも感じたそうですが、考えてみればここで提供しているような、学生が大人と同じ目線に立って上下関係なく一緒に活動できる場所は、少ないかもしれません。本気の大人たちと一緒に同じゴールを目指せる現場であり、参加者にとっても運営スタッフにとっても、“楽しい”場所になっているそうです。
一方、講師陣にとっても異分野の人々や、環境意識が高い若者たちとの会話は刺激になった様子です。もっと先生の話を聞きたいからと参加者の学校や会社へ招かれたケースも複数あったそうで、ここから新しい広がりが生まれています。
佐座さんも「環境系とは異なる分野にどうご縁を結んでいくか、今後SWiTCHとしても大切にしていきたいです」と嬉しそうでした。
10年は覚悟のうえで。小学校教育に組み込んで海洋問題を一般常識に
大人世代のサポートを得ることで、プロジェクトの実現スピードが加速するという手応えも実感されているそう。
たとえば札幌の「若者との共創プロジェクト」は、若者が地域の課題を抽出して課題解決のアクションを大人に提言し、企業や団体が実際にアクションに取り組んでいくのですが、こうした大人世代と一緒に社会を動かすようなプロジェクトの全国展開も計画中です。
実際のサポートメンバーには、企業経営者や研究のフロントランナーなど幹部層が多いそうですが、「設立から3年が経って、振り返れば共感してくださる人がこんなにもいたのだなと気づいて嬉しく思っています」と、これまでの成果に触れて感慨もひとしおな様子でした。
そして最後に、海の課題についても改めてお聞きしてみました。
「地球上で炭素を一番多く吸収しているのは海のはず。そんな海の働きや役割について、大人も子どもも思った以上に知らないことに衝撃を受けました。
自分が食べる魚がどこから来たのか、自分の暮らしがいかに海と繋がっているのか、まず知って、海を汚さないために自分は生活をどう変えていけるか考える。生活面では消費行動を変えることが必要だと思いますし、生活の次は仕事面を考えることも必要になってくると思います。考えることを常に促していきたいですね」と、今後は海に興味関心がない人たちへのアプローチもしていこうと、次のステップを模索しているようです。
「環境活動や社会貢献に関心を持ち、行動できる社会人になるには、小学校から育成していく必要があると思うんです。知識のインプットだけでなく行動というアウトプットが伴うように取り組んでいきたい。全ての学校で海洋教育に取り組み、一般常識にしていけたらと考えています」
教育となると10年は頑張らなければいけないなとスタッフとも声をかけあっているそうで、活動の根幹にあるブレない思いと覚悟を感じました。
そして「これまでたくさんのお力添えをいただいて、大きなパワーになりました。皆さんのサポートに感謝しています。私たちの団体だけではできないことが多くあるので、みなさんからのアドバイスを吸収して、今後の活動に生かしたいと思っています」と、いつかサポートいただくかもしれない大人世代を含む皆さんへ感謝のメッセージです。
若者と大人の隔てなく、大勢の人を巻き込みながらSWiTCHの取り組みは全国へ広がっています。10年後にどんな成果や進化が見られるのか、楽しみに待ちたいと思います。