海へのアクションを起こせる横浜市民を育てたい! 「ヨコハマ海洋市民大学」開講中<助成事業者インタビュー>
10年目を迎えた「ヨコハマ海洋市民大学」の2023年の挑戦と今後の展望を伺いました
2023.12.07
港町・横浜で、一風変わった市民大学を運営しているヨコハマ海洋市民大学。活動スタートから10年目を迎えた今年、さらなる運営強化を図ろうと初めて日本財団 海と日本プロジェクトの助成を受けて活動に取り組まれています。
2023年度のテーマに据えたのは「海のマニアさん大集合」。
生き方を変えるほどの情熱を注いで海に関わる活動をされている個性豊かなスペシャリストたちを講師に招き、その具体的な活動内容や生き様をお伝えする全10回の講座を開催中です。今年からリアルとオンラインのハイブリット開催に切り替えて、横浜市民をメインに多いときは70名ほどが参加されているのだとか。
8年前には一度、活動終了を告知したものの、市民からの「やめないで」という要望に応えて続けてきた10年。目指しているのは、“考える人”より“行動する人”、海へのアクションを起こせる「海洋教育デザイナー・海族(うみぞく)」を育てること。そのために海を切り口にした座学やフィールドワークなど、さまざまな講座を提供し続けています。
そんな活動の継続と成果は、今年6月、環境省の「地域環境保全功労者表彰」の受賞にもつながりました。
そして今年度は、これまで“避けてきた”という助成申請にも踏み出し、予定している講座は残すところあと3回。
「海は家族」と言い切る実行委員長の金木伸浩さん、立ち上げメンバーでもある川名優孝さんのお二人に、詳しいお話を伺いました。
2023年度の講師陣は、個性が眩しい海のスペシャリストが揃い踏み
今年度の講座のテーマに掲げたのは「海のマニアさん大集合」。これから海を知る横浜市民に向けて、毎年さまざまな切り口で講座を実施していますが、今回は海へ傾ける情熱とその生き様を直接伝えてもらおうと、マニアックな海のスペシャリスト9人に講師を依頼したのだとか。
「たとえば、自分がやるしかないとJAMSTECをやめて生活の全てを海の課題に振り切って邁進されている方、ペンギンが好き過ぎて勤めていた大学を辞し南極観測隊に入って研究に貯金を使い果たしてしまった方、ITベンチャーながら市場との付き合いからおさかなマイスターアドバイザーの資格をとり今やニボシ解剖講座を行うようになった方など、その多くが社会に出てからも海や海にかかわることへの情熱が抑えきれず、研究者や専門家になった方たちです。全て事務局メンバーの人脈からお声掛けしたのですが、みなさん、かなり変態といえます」と、ニヤリと笑みを浮かべる金木さん。
ひとクセありそうな個性的なみなさんのプロフィールを拝見するだけで、どんなマニアックな話が飛び出したのか、興味が湧いてきます。
ヨコハマ海洋市民大学の主な受講対象者は、横浜市民。“海に関わる活動ができる横浜市民を増やすこと”が目標ですが、今年はオンライン参加を可能にしたり広報活動も強化されたため、他のエリアから参加される方も増えました。
受講者は40代から60代の大人が中心で、学生が1割ほど。講師のファンがその後も続けて参加してくれたり、昨年度までに比べて今年は少し若返った印象もあったそうです。
おもしろかった、勉強になったという声のほか、高校生や大学生たちにとっては、好きなことをどう突き詰めたらいいか、大学院という進路選択についてなど、生き方についても学ぶところが多くあったようで、講座内容に手応えを感じられている様子です。
そんな熱気に包まれた各講座の様子や今後の開催講座の情報は、イベントレポートページやヨコハマ海洋市民大学公式サイトでもご確認いただけます。ぜひご覧ください。
振り返れば、受講者との嬉しい&楽しい思い出がたくさん
10年前のプロジェクトスタート当時、金木さんは横浜港大さん橋国際客船ターミナルの所長をされていました。横浜市の「都心臨海部・インナーハーバー整備構想」の延長線上にある市民と海をつなぐイベントとして開講したのがヨコハマ海洋市民大学で、2年ほど携わった後、諸事情により活動終了となる予定でしたが、市民からの「続けてほしい」という声に応え、「1年やってみるか」と会社の事業とは別に実行委員会を立ち上げ、運営を続けていくことになったそう。
これまでを振り返ると、「下水道が海に繋がっていることが初めてわかったという主婦の受講生から感想をいただいて、生活に根差したアプローチをしたことが発見につながったのだなと、やってよかったと嬉しく思ったことが印象に残っています」と金木さん。
川名さんも「受講生が『ここに通って友達100人増えた。小さく生きてきたが、世界が広がり活動できるようになれた。そんな経験をほかの人にもして欲しい』と言って実行委員メンバーになった人もいました」と教えてくれました。
毎年、全講座の8割に出席した受講生には「海洋教育デザイナー」としての修了証が授与されますが、これまでの受講者すべてが海族となって大活躍しているかと問われると、やはりプレーヤーを輩出するのは難しいそう。
それでも、1年間の締めくくりに受講者一人ひとりに今後の活動予定を聞くなかで「面白かったのは“さかなメデリスト”を起ち上げます、と宣言された水島綾子さん。“魚を愛でる10か条”をつくり海の生き物を五感と心で感じてありがたくいただく、というものを広めたいと言うんです。そして実際に料理教室をしながらワークショップやイベントを企画したり本を出版するなど活躍されて、水産女子(水産庁・海の宝!水産女子の元気プロジェクト)のメンバーにも選ばれていました」と、ヨコハマ海洋市民大学出身者の活躍を嬉しそうに披露してくれました。
「横浜というと港、水辺のイメージが強いと思いますが、周りが思うほど市民は海や港に興味を持っているわけではないと思うんです。海のごみの8割が陸上から出ているという現実も理解されていない状況では、たとえごみ拾いイベントに参加したとしても問題解決には程遠い。だったら、まずは自分たちの責任・問題なのだと理解して行動を起こせる大人を横浜に増やせればと、学びの場として“大学”と名づけました」と金木さん。
子どもたちに海を教えるためには、まず大人が、海を楽しい安全な場所にしていかなければという思いを原動力にしている部分もあるのだとか。
「まずは講座を通して海を知り、受講者自身で海の課題を見つけもらう。海中から顔を出すと360度ぐるりと見えますが、どこを見るかは個人の自由です。ぼくたちが決めたりはしません。どう解決するかを自ら考えアプローチできる人になってもらえたら」と大きな期待を寄せていました。
10年の節目に、これからを見据えた新しい運営体制づくりに挑戦中
多彩な講座をつくり続けるヨコハマ海洋市民大学ですが、実行委員会が目下の課題にしているのは、仕事終わりの遅い時間まで安く利用できる会場が少なく“開催場所が安定しないジプシー状態”であること。
もうひとつ苦しいのが金銭面。活動費は実行委員メンバーの持ち出しで、時給も交通費も出ないものの楽しみながら続けているのだとか。
「規模を大きくするつもりはなく、毎年入れ替わりで少しずつ受講体験者が増えてくれればいいと思っているので、年間100万円以下の予算でまかなえている状態です。
それに、“助成金の切れ目が活動の切れ目”になる事例もたくさん見てきたので、続けられなくなるのではという恐怖感があって。海プロとのお付き合いはあるものの助成申請は検討してこなかったんです」
しかし、コロナ禍以前のような年間20回の講座を開催する体力が落ちてきたこと、運営手法を変えてハイブリット形態に挑戦したことなど、10年続けた今がシフトチェンジのタイミングなのではと思い直し、助成申請を考えたそう。
「今後も永続的に活動していくためには、常時10名程の実行委員メンバーのなかに若い層が育っていないことも問題だと感じていました。持ち出しが前提の自走では、若い子が食べていけるような持続性が見込めないので、3年かけて事業化できればと、いま仕組みづくりをしているところです」とこれからに向けた意気込みを教えてくれました。
海は家族。いつでも、いつまでも海と一緒にいられるように
最後に、みなさんにとって海はどんな存在なのかと尋ねてみると、お二人から即座に「海は家族です」との答えが返ってきました。
海の近くに在住し、海洋大学の教員として海に関わる仕事に携わることも多かったという川名さんは、
「海は家族。それを私たちは“海族(うみぞく)”と表現しているのですが、これは立ち上げ当初に掲げたコンセプトなんです。海が、一緒に暮らす自分の家族であれば当然、キレイであってほしいし健やかであってほしい。自分ごととして考えると思うんです。講座でも毎回繰り返し伝えていて共通言語になっています。自分たちの生活の中に海があることを知って、離れていてもいつも海を想う。それが当たり前になることが大事だと思います」
釣りが大好きという金木さんも「望んでいるのは、いつまでも海と一緒にいられること。ダイビングが楽しいとかクロダイが釣れて嬉しいとか、そんなふうに海でずっと楽しく遊んでいられるように、環境の悪化を遅らせたいし良い環境を取り戻していきたい。汚い、危ない、近寄れないなんてことがないように。楽しく過ごせる海にしていきたいですね」と、お二人の言葉に熱が込められました。
さらに、「何事も楽しくなければ続きません。まずは深く考え込まずに実践するのがいいと思います。“誰にでも簡単にできる活動”であるべきで、目の前にあるごみをたった1つ拾うだけでも、横浜市民の半数が拾えば毎日約180万個の流出を防げますから」と、海も学びも楽しく!と訴えるお二人自身が全力で楽しそうであることに、何よりも説得力を感じました。
今年度の講座開催予定は残りあと3回。そして2024年度にはどんなユニークな企画が用意されるのか、自然と期待も高まります。横浜市民ではないにも関わらず、楽しみに待ちたいと思います。