積丹の植物でつくる青い積丹ジン「海と日本プロジェクト エディション」登場
荒れた休耕地を活かしてジンの原料植物を栽培。積丹の自然が香るジンが海と森を守る!
2021.11.16
地酒、地ビールはよく聞きますが、北海道の積丹町では、地元オリジナルのクラフトジンづくりが行われています。
酒造りに関して「何も知らない」という人たちが蒸留所をつくり、寄せられる懸念の声にも揺らぐことなく、構想5年目にして初のオリジナルジン「火の酒-HONOHO」を2020年に製造販売。
そして翌年8月、火の酒-HONOHOから「KIBOU-海と日本プロジェクト エディション」が発売されました。
資源豊かな積丹の海がいつまでも変わらずにあるように…と願ってつくられた、積丹ブルーと呼ばれる美しい海の色と同じ、青いジンです。
2018年に誕生した市民出資の蒸留所「積丹スピリット」の岩井宏文さんに、なぜ積丹町でジンづくりなのか?海とどんな関わりがあるのか?などお話を伺いました。
「何も知らない」素人たちがイチから本気でジンづくりに挑戦
ジンは、さまざまなハーブ(ボタニカル)で香りをつけた蒸留酒のこと。積丹スピリットが手がける積丹ジンは、北海道や積丹町の植物を原料にしてつくられています。アカエゾマツの深いオレンジの香りを基調にボタニカルの華やかなアロマが広がり、森の中を散歩しているような爽やかな味わいが楽しめるのが特徴です。
そもそも地元オリジナルのジンをつくろうという構想は、積丹町の地域活性・地方創生策のひとつとして2015年にスタートしました。
休耕地の活用促進をテーマに新産業を立ち上げるべく、町の調査メンバーとして参加していた岩井さんは、各地を巡りヒアリングする中で「積丹は植生が豊かで地形や気候がスコットランドに似ている。ジンの原料になる植物を栽培できそう」というアイデアを耳にして、「面白そうだな」と思ったそうです。
農地を動かせるだけの資金を稼げる産業に成長するだろうと、直感したのだとか。
そこからプロジェクトはスタート。最も大変だったのは資金調達とレシピ開発で、役場との二人三脚で奔走しました。
なにしろ材料も製造方法も『何も知らない』ので、自費で本場スコットランドの醸造所を巡り、ロンドンのバーでヒントを見つけ、帰国後にレシピの模索を始めます。
「なにをどう配合するとどんな味になるのか、素人なのでまったく見当がつかないんです。かといって勝手に試作すれば密造になってしまうわけで。そこで広島にある国の機関と共同研究させてもらうことになりました」
広島へ何度も通い、自分たちのオリジナルレシピを開発しました。
プロジェクトには社員3名のほか、植生のプロ、蒸留技術のプロ、販売のプロなど各分野のプロが総勢10名以上参加され、
「販売への道筋をどうつけるかなど、皆さんからアドバイスをもらいながら進めていけたんです。皆さんにご協力いただけたのは、役場の担当者さんの人望が大きかったと思います」とチームメンバーに感謝。
一方で、周囲からは知識や技術面、資金面の心配も含めて事業化を懸念する声が少なくなかったそうです。
「周りからは『コイツらおかしい』と思われていたと思いますよ。そりゃそうだろうなと自分でも思います。でも積丹という立地に生まれたジンには、都会のジンとは全く違う方向性が出るだろう、間違いなく成功すると信じて疑いませんでしたね」と当時を振り返ります。
原料の植物を自家栽培。品種ごとに蒸留して20種類以上のフレーバーが完成
現在商品化されているのは、「KIBOU」と、ブレンド違いの姉妹品「BOUQUET」。積丹スピリットの最大の特徴とも言えるのは、原料の植物を自家農園で栽培し、品種ごとに一つ一つ蒸留してからブレンドを行なっている点です。通常の一般的なジンづくりでは行わない手間暇のかかる手法を用いているため、それぞれのアロマが際立つ洗練された味がつくられるのだとか。そのシングルフレーバーは現在、20種類にも及ぶそうです。
しかし、なぜそんな手の込んだ手法を用いることにしたのでしょうか。
「酒づくりを『何も知らない』植生のプロを中心に立ち上げた蒸留所だからですね。どの植物がどんな味わいになるのか、一つ一つ確かめるという我々の製造プロセスが、そのままスタイルになったんです。蒸留所を大きくした現在もまだ『実験中です』といった感じなんですよね」と笑いますが、これが結果的に、事業モデルを広げる大きな財産になりました。
「シングルフレーバーの組み合わせ次第で、お客様だけのオリジナルジンをつくることがいくらでも可能になりました。今年から始めたばかりですが要望は増えていて、海プロとのコラボもそのひとつです」
大好きな積丹ブルーの海の再生に取り組む、若き漁師たちの取り組みを応援
300本だけの限定販売となる海と日本プロジェクト エディションは、火の帆-HONOHO「KIBOU」をベースにマメ科の植物をプラスして海の色を再現しています。
「なかなか納得のいく色が出なくて困りました。試行錯誤してやっと、積丹ブルーに近い、好みの深い色が出せました」と満足そうに教えてくれた岩井さん。そして「我々にできるのはジンを通じて『知ってもらうこと』なので、『伝える』という海プロとのコラボの主旨に、自然と想いが合致したんです」とコラボに至った背景を明かしてくれました。
売り上げの一部は、積丹の海を守る漁師団体の活動に寄付されますが、実は11月に発売される新しいジンも海をテーマにした商品なのだとか。ジンの名前は、ずばり「UMI」。
「いま積丹の海はウニの餌になる昆布が減少していて、痩せた海を再生するため若い漁師たちが工夫を凝らした取り組みを実践しています。これは『積丹方式』と呼ばれるモデルケースとして、水産庁長官賞や農林水産大臣賞も受賞しているんですが、こうした裏舞台の活動を多くの人に知ってもらって、支援のご協力をお願いしたいと思っています」
厳しい自然の中で海風を受けまがら育つ植物を扱っているので、「我々は海と森の環境をどう繋いで、結びつけて伝えていくかというテーマを抱いています」という岩井さん。
最近は積丹の環境を知ってもらうために、自社農園や積丹の自然をめぐる体験ツアーも開催していて、参加者による口コミも広がっているらしく、オンラインショップでの購入者はほとんどが女性なのだとか。
北海道で広がる「締めパフェ」なる文化を捉えて、女性たちに向けて「ジンはチョコレートとも好相性なんですよ」と、スイーツとセットにした新しいアピールにも抜かりがありません。
そして最後に、将来のビジョンを伺ってみると、「現在20種を保有するシングルフレーバーを100種類くらいに増やしたいですね。地元に新産業をつくるという意味で、それらのデータはオープンソース化して、『日本のボタニカルのラインナップを見に行くなら積丹町だよ』と世界から注目を集められたらいいなと思います。次のステージとしては、世界中のバーテンダーがなぜか積丹町でシェーカーを振っている、という光景を見ること。3年後くらいには実現できるんじゃないかと思っています」と自信をのぞかせてくれました。
実績を積んだ現在、当初あった周囲からの懸念の声は消え、逆風は追い風に変わっている様子。積丹町の火の酒「火の帆-HONOHO」が、大きな帆に風を受けて世界へと船を出す姿が目に浮かぶよう。今後の躍進に、ますます大注目です。