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七尾の海で海藻観察~サワラをさばいてバーガーに挑戦!

海と日本プロジェクトin石川県実行委員会は、「地球温暖化に伴う海水温上昇」を一泊二日で学ぶ、【七尾湾「魚のゆりかご」海の環境調査隊!】を7月27日(水)から28日(木)にかけて開催しました。

2022.08.15

海と日本プロジェクトin石川県実行委員会は、国連食糧農業機関から「世界農業遺産」に認定されている【能登の里山里海】を舞台に様々なイベントを開催しています。

今回は約20年前から石川県沖での漁獲量が急激に増えた「サワラ」と、国内屈指の広さを誇る能登の藻場や、七尾湾での生息状況に変化がみられる海草「アマモ」に着目。多彩なゲストティーチャーの解説やスノーケリングによる海中観察などを通して、この2つの変化に共通する「地球温暖化に伴う海水温上昇」を一泊二日で学ぶ、【七尾湾「魚のゆりかご」海の環境調査隊!】を7月27日(水)から28日(木)にかけて開催しました。

このイベントは、次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

開催概要
金沢市などの小学5・6年生16人が能登島や七尾湾の様々な海洋施設で豊かな石川の里海を支える環境を体感。そこに起きている変化から「地球温暖化」が海に及ぼしている影響を学ぶ。さらにその成果として「サワラバーガー」を開発する。
開催場所
能登島、七尾湾、七尾市内
参加人数
小学校5・6年生 16人
協力団体
のとじま臨海公園水族館、能登島観光協会、能登島ダイビングリゾート、日本航空高学石川、能登島荘、石川県水産課、JFいしかわ、のと里山里海ミュージアム、里山里海キッチン、石川印刷

「魚のゆりかご」七尾湾の海草と魚たちとの関係性について学ぶ

イベントの拠点となった能登島は、能登半島の七尾湾の中にあり、漁業や様々なマリンアクティビティなど「海の恵み」に抱かれて生活している島です。子ども達が2日間の学びの最初にやって来たのは、石川の海の生き物を展示している「のとじま水族館」。職員の高橋勲さんと竹山裕子さんに七尾湾が日本海側最大の内湾で閉鎖性水域であることや、国内屈指の豊かな藻場が「海のゆりかご」となっていることを教えて頂きました。

職員の高橋さんが「みんな、好きなお魚や知っているお魚はある?」と尋ねると子ども達からは「ブリ!」と元気な回答が。石川では家庭の食卓によく登場するブリも「養殖や天然と言うけれど、実は養殖でも卵を生むところからは育てられません」と説明。
養殖の魚は、海に漂う「藻」に付いている卵や、潜んでいる生まれたての幼魚を見つけ、そこから育てられているという話から子ども達は、どんなに技術が発達しても「海の力にはかなわない」事があると知りました。さらに「藻」の中でも特に浅瀬に生息する海草「アマモ」は様々な生き物の住み家となっていて、国内有数の群生地である七尾湾は多くの命が生まれて育つ「海のゆりかご」であることを学びました。続いて、高橋さんからは「では何故、七尾湾ではアマモが多く育つのかな?」という質問が。

能登半島に囲まれた七尾湾は水深が浅く波も穏やかです。そのためアマモが波に流されず日光がよく当たり、アマモが群生する「アマモ場」が出来たのだそうです。

さらに高橋さんから「アマモの多い七尾湾はとても綺麗です。この状態を保ちたいけれど、理想通りにはいきません。海でゴミ拾いをしたことがある人はいますか?何が落ちていたかな?」と聞かれた子ども達は素早く口々に「プラスチックが多かった」と回答。河川の水が流れ込む湾内には、土砂や田畑の栄養分に加えて生活用水、そしてプラスチックごみも流入します。高橋さんはそんな海洋ごみや生活用水の影響がアマモをはじめとする海草の育ちを悪くする原因になると解説。子どもたちは真剣な表情で高橋さんのお話に耳を傾けていました。

写真左:小学5・6年生16人が参加(のとじま水族館) 写真右:能登の魚について説明する高橋勲さん
写真左:小学5・6年生16人が参加(のとじま水族館) 写真右:能登の魚について説明する高橋勲さん

「海藻」と「海草」の違いに子ども達もびっくり!

豊かな藻場や海の生き物を水中観察を行うため、向かったのは、鰀目町にある勝尾崎海岸。岩場ですが、波穏やかで様々な海の生き物観察に適した海岸です。海の観察を全面サポートしてくれるのは日本航空高等学校石川の潜水部員の高校生。海藻のことや海での活動を教わった後、スノーケリングで海に潜って生き物を観察します。航空石川の潜水部員は、スキューバダイビングやレスキューの訓練はもちろん、海草アマモの保全活動や海洋ごみ清掃など、海の環境改善にも取り組んでいます。小学生のスノーケリングをサポートするのは今回が初めてということで、子ども達のための海藻クイズ作りや伝わりやすい話し方の練習など、様々な準備をしてくれました。
そのクイズの中でも子ども達が一番驚いた様子だったのが「海藻と海草の違いは?」という問題。答えは「海藻=花がつかず、胞子によって増える”藻”」「海草=花がつき種ができる”植物”」という違いがあることを知りました。今回のテーマの一つ「アマモ」は、種ができるので「海草」となります。

写真左:航空石川高校の潜水部員がサポート 写真右:海藻と海草の違いをクイズで説明
写真左:航空石川高校の潜水部員がサポート 写真右:海藻と海草の違いをクイズで説明

続いて登場したのは、”能登の海藻博士”こと石川県水産課の池森貴彦さん。海の豊かさを陰で支える海藻や藻場について説明します。石川県沖では、なんと70~80種類もの海藻が採れるそうです。
池森さんは子ども達に「海水の色が違うと環境も異なるため藻の種類も変化する。」と解説しスノーケリング中に海藻を見つけたらどんな種類のものなのかどんどん質問するように促して下さいました。

写真左:“能登の海藻博士“池森貴彦さん 写真右:勝尾崎の海に潜り、海藻の種類を学ぶ
写真左:“能登の海藻博士“池森貴彦さん 写真右:勝尾崎の海に潜り、海藻の種類を学ぶ

初めてのスノーケリング。海の生き物を観察しよう!

大半の子ども達はスノーケルやゴーグルを着用するのは今回が初めて。潜水部の高校生は子ども達の気持ちをほぐしながら、まさに手取り足取りで器材の装着を教えました。万全なサポートを受けながらもドキドキの子ども達は、いよいよ海へ。恐る恐るゴーグルで海の中を覗くと小魚やエビを発見!あっという間に緊張は解けて夢中になってしまいます。バディを組んだ子ども同士、潜水部の高校生とも打ち解けて、発見した海藻の種類を次々に池森先生に聞いていました。
海で観察した子ども達は「楽しかった!」「お魚も沢山見えた!」「ダイビングしてみたい!」など目を輝かせていました。そして、「潜水部の皆さんが格好良かった」という声が聞かれる場面もありました。

写真左:スノーケルやゴーグルなどの器材を装着 写真右:スノーケリングでの海の生き物観察
写真左:スノーケルやゴーグルなどの器材を装着 写真右:スノーケリングでの海の生き物観察

サワラをさばこう!さばける塾in能登島

スノーケリングの後は勝尾崎から徒歩5分、宿泊する能登島荘に入りました。主人の谷口和義さんの指導で今回の学びの対象となるお魚「サワラ」を三枚におろす「さばける塾」に挑戦です!
子ども達がさばくサワラは、翌日作る「サワラバーガー」の具材となります。自宅で料理の手伝いをした経験はあっても、魚をさばいた経験がある子どもは流石にいませんでした。谷口さんとフードコーディネーター佐冨上あつ緒(さとう・あつお)さんの指導で、サワラの幼魚サゴシをさばきます。魚を調理した後は、包丁とまな板の洗い方も谷口さんから教わりました。

写真左:能登島荘の厨房で「さばける塾」 写真右:サゴシの三枚おろしに挑戦!
写真左:能登島荘の厨房で「さばける塾」 写真右:サゴシの三枚おろしに挑戦!

石川沖で急に獲れ始めた「サワラ」のヒミツとは? 

さて、子ども達がさばいた「サワラ」とは一体どんな魚なのでしょう?JFJFいしかわ・おさかなマイスターの高岩信宏さんによると、実はこの100年間で世界の海面水温は平均0.55度も上昇したのに対して石川県の沖は1.72度も上昇。この上昇幅は世界一で、能登沖の日本海は「世界で最も熱い海」となっているのだとか。日本ではその土地で獲れる魚に応じた食文化がありますが、この様な状況が進めば獲れる魚種が変わって、食文化も大きく影響を受けます。石川にとって、その代表的な魚がサワラなのです。

写真左:海水温上昇で急に増えたのがサワラ 写真右:JFいしかわ・おさかなマイスター高岩信広さん
写真左:海水温上昇で急に増えたのがサワラ 写真右:JFいしかわ・おさかなマイスター高岩信広さん

海面水温上昇の影響を受け、定置網漁では今やブリに次ぐ2位の漁業生産額となったサワラですが、石川県にはサワラを食べる習慣がありません。しかし貴重な水産資源を無駄には出来ません。
ここで子ども達は、次の日に作る「サワラバーガー」の隠れた目的に気付いた様子でした。

能登の豊かな海を陰で支える海藻

能登島を後にした子ども達が向かったのは、七尾市の「のと里山里海ミュージアム」。能登の海藻博士こと池森貴彦さんが再登場して、今度は能登が誇る藻場についての集中講義を受けました。能登の海は全国有数の藻場面積を誇り、特にホンダワラ類のガラモ場は全国随一の広さ。石川沖の藻場は1990年から2019年の間で面積はほぼ変わらず、豊かな海洋環境が維持されていると言えるにも関わらず、能登町沖の藻場は4分の1に減少しているのです。この数字に子ども達も思わず「あー…」と溜息。対照的に七尾湾外側の藻場は大きく増えています。これは海水温上昇で新たな種類の藻が増えたからだと池森さんは話します。

食卓によく登場するモズクは勿論、奥能登には昔から様々な海藻を食べる習慣が根付いています。その数はなんと60種類!こんなに多くの種類を食べる地域は全国でも珍しいのだとか。自ら料理もする池森さんは色んな海藻料理を紹介しながら、海藻がもたらす海の恵みについても、子ども達に伝えました。

写真左:七尾市・のと里山里海ミュージアム 写真右:池森さんが能登の藻場を詳しく解説
写真左:七尾市・のと里山里海ミュージアム 写真右:池森さんが能登の藻場を詳しく解説

七尾湾は全国屈指の「海草・アマモ」の群生地だが…

続いて登壇したのは、能登の森里海研究所の大慶則之(おおけい・のりゆき)会長。大慶さんは2019年に石川県水産総合センターを定年退職した後、七尾湾のアマモ維持再生に取り組んでいます。アマモは陸の植物同様に根・茎・葉があって種も作るので、「海藻」ではなく「海草」に分類されます。七尾湾はアマモが群生する日本有数のアマモ場を誇ります。アマモ場は多様な魚貝類の住み家であるだけではなく、産卵場所でもあるので「魚のゆりかご」と呼ばれるようになりました。

そしてアマモには、もう一つの重要な役割があります。地球温暖化の主要因となっているのが温室効果ガスと呼ばれる二酸化炭素です。海草アマモは、光合成によって海中に溶け込んだ二酸化炭素を吸収して酸素を生み出し、その過程で汚れた海水を浄化しています。

ところが七尾湾のアマモ場の面積も、かつての半分程度に縮小しています。アマモも高い水温に弱く、地球温暖化による海水温上昇が衰退につながっているのです。アマモには根から増える方法と種から増える方法の2つがありますが、夏に水温が上がり過ぎると根が枯れてしまうため、根から増えることなく種で増えることになります。そこで大慶さんは、夏場にアマモの種を回収して保管し、秋に種を撒いてアマモを増やす活動をしています。なんとこの活動には、あの航空石川高校潜水部の皆さんも関わっているそうです。

海で起きている現象は普段、目にすることがありません。それが大きな問題だと大慶さんは考えます。
大慶さんは子ども達に「七尾湾の環境の変化が人々の目に触れないので、この問題はあまり知られていません。皆さんは是非気づいて、そしてどうしたら良いのか考えて欲しいです」と話しました。

写真左:能登の海里海研究会 大慶則之さん 写真右:アマモは地球温暖化の改善にも貢献
写真左:能登の海里海研究会 大慶則之さん 写真右:アマモは地球温暖化の改善にも貢献

新たな水産資源サワラを利活用 “サワラバーガー”開発!

2日間に渡るプログラムも遂にラストスパートです。場所をJR七尾駅横の「里山里海キッチン」に移していよいよ「サワラバーガー」開発に挑戦!前日に能登島荘で子ども達が三枚におろしたサワラの切り身は、フードコーディネーター佐冨上あつ緒さんが、塩焼きとフライに調理しました。これに合う野菜やチーズを組み合わせ、マヨネーズやケチャップなどで味付けし、バンズに挟んで美味しいサワラバーガーを2個作るのがミッション。ここで、子ども達のアイデアを元に「サワラバーガー」を商品化することを発表!一気に気合が入ります。しかも昼食は、自分達で考えたサワラバーガーです。美味しいレシピを一生懸命に考えました。

写真左:フードコーディネーター佐冨上あつ緒さん 写真右:美味しいと思うレシピを考えます
写真左:フードコーディネーター佐冨上あつ緒さん 写真右:美味しいと思うレシピを考えます

子ども達のサワラバーガーが完成!アイデアを元に商品化します!

サワラバーガー2種類が出来上がり、自分達が考えて作ったサワラバーガーを試食しました。大半は「思っていた以上に美味しくなった〜!」と満足そうでしたが、「あまり美味しくなかった・・・」と肩を落とす子もいて、まさに悲喜こもごもです。試食後は子ども達が最適だと思うサワラバーガーのレシピを書いてもらいました。これをプロに渡して実際に販売し、石川県内だけでなく金沢や首都圏にも展開することで、子ども達が自ら学習した海水温上昇問題を広く世間に知ってもらう活動を行う予定です。場所は七尾湾に面した能登食祭市場にあるアジアンキッチン・ANJIAN(アンジアン)、9月販売を目標に計画が進んでいます。

写真左:美味しそうなサワラバーガーが完成 写真右:自作のサワラバーガーを豪快に!
写真左:美味しそうなサワラバーガーが完成 写真右:自作のサワラバーガーを豪快に!

 

イベントレポートは実施事業者からの報告に基づき掲載しています

参加人数:16人